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雑記:濡れた喪服のような黒。

小説の、地の文が好きだ。会話文ではない、地の文。地の文が長い小説は、説明的でおもしろくない、と一般的に言われがちだけれど、私は全然そんなことは思わない。地の文の好みで小説の好みが決まるといっても過言ではないくらい、地の文が好きだ。

作家さんでいうと、小川洋子さんなんて、地の文が本当に繊細で危うくて美しい。とても好み。ミステリの地の文は説明的であることが多いけれど、京極夏彦さんは心理描写に長けていると思うし、有栖川有栖さんは風景描写が非常にエモーショナル。

自分でつたないながらも小説を書くようになって、地の文の難しさを感じる。でも、もともと好きだから、書くのも好きなのだ。でも、心理描写も風景描写も、語彙力と想像力の限界から、似たような言い回しになることが多い、と最近気にしている。書いてから「これ、前にも使った比喩だな」と思ったりするのだ。

例えば、水の表現に宝石を使いがちだ。私は、装飾品としての宝石には全く興味がないのだけれど、鉱石としての宝石は大好きなのだ。

弾ける水面みなもはアクロアイト。

「最後の夏、またね。」より

森林の深い緑に囲まれた水面はタンザナイトのような青。太陽を浴びて反射する光はベニトアイトのメタリックな光沢。

「世界を愛するには何もかもが足りなくて」より

宝石は美しいものだから、使いやすい。気をつけないと、使いすぎるから、表現の幅を広げたいと思う。

違和感の表現に関しては、最近下記を褒めていただいたので、とても喜んだ。

それは、眼鏡のガラスについた指紋ほどの、些細な引っかかりであった。

「淡雲さようなら」より

違和感の表現は難しい。どの程度の違和感で、それが不快なのか、興味なのか、恐怖なのか、表現によってニュアンスが変わると思った。

色の表現は、○○のような赤、とか、○○のような緑、とか、そんな風に書くことが多いのだけれど、黒について書くことが個人的に多い気がする。よく使ってしまうのが「コールタール」と「喪服」だ。使う場面を選びそうな比喩だけれど、たぶん私の書くものが、そういった暗めの比喩を使いたがるような文章なのだろう。

乾ききらぬコールタールの塊のようでもあった。漆黒よりもさらに深い黒。雨に濡れてじっとりと重みを含んだ喪服のような黒。

「マテリアライズ ブラック」より


一部抜粋しながら地の文の表現について考えてみたのだけれど、私は比喩が好きだ。本当は、安部公房のような、そんな比喩誰に伝わるの?と言いたいほど突飛で、でもちゃんとニュアンスは伝わるしオリジナリティのある(オリジナリティしかない)比喩が使いたいけれど、実力不足で使えない。誰にでも伝わるけれどオリジナリティのあるもの。そんな比喩を使いながら、地の文の質を高めていきたいと思う。説明臭くならないように、心理描写や風景描写を丁寧に、書いていきたいと思う。


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