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小説:脱出ゲーム?【2500文字】

 目を覚ますと、狭い部屋にいた。床も壁も白い、無機質な部屋だ。部屋には窓がなく、自分が寝ていたベッドのほかに、小さなテーブルとイスと、ドアが二つある。テーブルには、ペットボトルの水が一本と、紙が何枚かと鉛筆が置いてある。
 俺はベッドから立ち上がる。ベッドの足元のほうにあるドアを開けてみると、トイレだった。もう一つの、ベッドから離れた場所にあるドアを開けようとするが、開かない。ドアノブを何度もまわし、押したり引いたりしてみたが開かない。外から鍵がかかっているらしい。
「おい、誰かいねえか!」
 ドアから外に向かって声を出してみるが何の返答もない。
 どうやら俺は、閉じ込められたようだ。こんなことするのは、あのバカか、あのバカか? 無能な部下どもを思い出す。俺のまわりはバカしかいない。
 ドアには、目の高さあたりにほんの少しの隙間があった。ちょうどA4の紙一枚通せるほどの隙間だ。俺はドアに張り付いてその隙間を覗いてみる。暗くて何も見えない。
 チクショウ、バカが、と言い捨て、とりあえずイスに腰掛ける。喉が渇いたので、ペットボトルの水を一口飲んだ。それをドンとテーブルに置いたとき、背後からカサリと小さな音がした。振り向くと、開かないドアの前に一枚紙が落ちている。隙間から差し込まれたらしい。拾ってみると何か書いてあった。

念力俳句の使用深海うたモアイ像
④⑭⑦⑤⑮⑰⑧⑭⑱

「はあ?」
 思わず声が出る。なんだこれ、意味がわからない。でも、俺が覚醒したことを確認して紙が入れられたということは、俺はやはり人為的に閉じ込められたのだ。
 俺は紙に書いてある意味不明な文字と数字を眺めて、もしかしたら巷で流行りのリアル脱出ゲーム的なものなのかもしれない、と思った。この紙に書かれていることが暗号になっていて、それを解けば脱出できる、ということかもしれない。
 俺は文字と数字を眺める。こういった謎解きは実は得意なほうだ。テレビでやっているクイズ番組など、バカだな、どうして解けないんだ? と笑ってしまうこともある。解いてやろうじゃねえか。俺はテーブルにある紙とえんぴつを使って、暗号解読に挑むことにした。
 
 文字と数字が並んでいたら、まずは頭から数字をふってその文字を読むのが定石だと思うが……文字数は15文字で番号は⑱まで数字があるから、そのままというわけにはいかないな。とりあえず、ひらがなにしてみるか。

番号は④⑭⑦⑤⑮⑰⑧⑭⑱だから……
「き、か、く、は、い、た、の、か、も、きかくはいたのかも。企画は板野かも!」
 急に知っている名前が出てきて嬉しくなった。暗号の解き方はあっているらしい。そして、これは板野さんの企画なのか! それなら楽しそうじゃないか。どこかのバカが閉じ込めたのなら監禁で訴えてやるところだが、板野さんなら楽しい脱出ゲームになりそうだ。サイトでお世話になっている人だけれど、こんなリアルゲームまで企画するようになったのか。
 俺は紙に「企画は板野かも」と書いて、ドアの隙間から外に送り出した。すると、すぐに次の紙が入ってくる。
「よしよし、正解だったんだな」
 なんだか楽しくなってきた。さすが板野さん。
 次の紙にはこう書いてあった。

永遠ひしゃくニンジャカーテンコール
①⑥⑮⑧

 同じ暗号か。それなら簡単。

「え、し、テ、く……えしテく? なんだそれ」
 解き方が違うのだろうか。それとも……そうか! 永遠を「えいえん」とは読まないんだな。そんなひっかけには騙されねえぞ。

「と、く、コ、ン、とくコン。匿コン!」
 板野さんがよく楽しませてくれる企画、匿名コンテストのことか。新しい匿名コンテストをやりますよ、ということだろうか。それならぜひ参加したい。俺は紙に「匿コン」と書いてドアの外へすべらせた。今回の脱出ゲームの経験が小説に活かせるかもしれないな、なんてワクワクする。
 すぐに次の紙が入ってきた。

鍋焼きうどん河童念力
⑥⑨⑭⑬

 お、短いな。

「ど、っ、き、り……え? どっきり?」
 どういうことだ。この脱出ゲームがどっきりだということか? どこからどこまでどっきりなんだ? 板野さんの企画じゃないということか? 期待させやがって。とりあえず「どっきり」と書いてドアから紙を出すと、すぐに新しい紙が入ってきた。正解だったようだ。釈然とせず、思わず舌打ちが出る。

永遠カーテンコール
⑤③⑥⑧⑫⑦

 もう、いい加減にしろよ。どっきりなら、いつまで同じ暗号を解かなきゃいけないんだ。板野さんじゃないことは確かだ。どこのバカだ? まあいいさ。付き合ってやるよ。

 ん? 11文字しかない。暗号は⑫まであるのに。永遠は「えいえん」じゃないのか? さっきは「とわ」と呼んだけれど、それじゃ余計に文字数が少なくなる。ほかの読み方、あるか? 
 俺は考えた。板野さんが企画するにはおもしろくない。やっぱり板野さんの企画ということ自体、どっきりの一部なんだ。ぬか喜びさせようという魂胆だろう。無性に腹がたってきた。誰のしわざか知らねえが、絶対ここから出てやる。考えろ、永遠の読み方を。考えろ。
 室内をウロウロしながら歩き回っていると、ふとある考えが浮かんだ。ふん。バカが考えそうなことだ。俺を甘く見るなよ。

 これなら12文字以上あるし、解読できるだろう。ざまあみろ。僕の勝ちだ、バカ。

「えっと、⑤③⑥⑧⑫⑦だから……バ、ー、ー、ー、ー、カ。バーーーーカ!?」

 ふざっけんな! バカ! と俺は紙とえんぴつを床に叩きつけた。
 紙を拾ってぐちゃぐちゃに丸めてもう一度床に叩きつけた。むかついて呼吸が乱れる。ドアの外が静かすぎる。俺は仕方なく丸めた紙を拾って、伸ばして、ドアの外へすべらせた。しかし、待っても、次の紙は来ない。次第に恐ろしくなった。めちゃくちゃにドアを蹴り飛ばしても、怒鳴り散らしても、外は静かなままだ。
 
 そのまま何日たっただろう。
 いつまでもドアは開かなかった。いつまでも、いつまでも。

【おわり】

使用したお題
「念力」「深海」「うた」「モアイ像」「ひしゃく」「永遠」「ニンジャ」「カーテンコール」「鍋焼きうどん」「河童」

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