#4 斎田さん

シャンプーはパンテーンが好きな小麦肌の主婦。
バイトはバイト感覚で参加するので責任を負わされそうなことは苦手。しかしバイトとしてやるべき仕事はちゃんと覚えているので周囲を不快にさせるようなことはない。
私がまだこの仕事を始めたばかりの時、次の仕事が2人一組で行うものだったので、ペアになる斎田さんがどんな人なのか、他の人に少し聞いてみたことがあった。その人によると、斎田さんは責任を負うようなことは嫌うので、恐らく斎田さんとペアの時は池谷さんがリーダーになるよと言われた。初めての仕事で1回目からリーダーか…新人にリーダーをやらせる斎田さんとは一体何者なんだろうか…と身構えていたが、実際会うと大したことはない、普通の大らかな主婦で、リーダーという仕事自体もその日の簡単なレポートを書いて提出するだけ、しかもそのレポートも大して誰も見てないというイージーなものだった。ただ、斎田さんはこれすらも拒否するのか…と少し思ったが、人手不足な世の中なので、面倒なことをやらせて辞められたら困ると、派遣会社の人も周りもそれでよしとしてるのだろう。何より、斎田さんは普通にいい人である。ちょっと苦手なことをみんなでカバーし合ってるだけだ。そう思うこともできる。

斎田さんにはたしかプーさんのような出立ちの旦那さんがいて、よく2人で車で何処かに行く。伊豆や山梨の方まで車で行き、必ず途中に現れるドンキでお買い物をする。それが旅のお土産となる。特にホテルには泊まらず車中泊を楽しむ。同じドンキでもその土地ごとに商品のラインナップが微妙に変わるらしく、そういうところを見つけては旦那さんと2人で楽しんでいるそうだ。日帰りの予定でも、途中で温泉を見つけたり、ドンキで盛り上がって帰るのが面倒くさくなったら、子供に「もう一泊するね〜」と連絡を入れて車中泊2泊目、3泊目と続く。
あまり積極的ではない勤務態度から、プライベートはインドアタイプなのかと勝手に思っていたが、このように、斎田さんは意外にもアクティブタイプである。若い頃はよく海へ行き、浮き輪にお尻をはめて水面に浮かぶあのスタイルでプカプカ浮かんでいたらしい。ちなみに海の後も必ずドンキに寄る。しょっちゅう海とかどっか行って必ずドンキに寄る。また、日焼けはあまり気にしないタイプなのか、日焼け止めでもブロック出来ないくらいずっと強い日光に当たっていたのか、手の甲を見てそんなことをこっそり思った。

子供はお姉ちゃんと弟という構成だ。「女の子って大きくなってくると色々話せるから男の子より楽しいんですかね?」と私が尋ねると、どうやら斎田さんちのお姉ちゃんはちょっと怖いらしく、弟の方が愛想があり、よく喋ってくれるので、あまり喋らないお姉ちゃんには少し気をつかうと言っていた。

私の斎田さんに対する印象が少し変わったエピソードがある。
子育てはいつが1番大変だったかと訊くと、斎田さんはしばらく考えたあと、「覚えてない」と言った。「たしかに赤ちゃんの時とかは凄い大変だったのかもしれないけど、でもそれ以上に楽しかったね。」そんなことをふにゃっとした笑顔とともに話す斎田さん。
面倒なことをなるべく避ける責任を負いたくない人と思っていたが、もしかしたらそれはただの上辺の一部で、実はその下にもっと広い、心の裾野が広がっていて、波立ちキラキラ輝く海でも起隆する山でもない、牧歌的でうたた寝したくなるような、平野みたいな人なのかもしれないと思った。

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