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≪ 13. 欲求を満たす喉の痣。 リビングルームで、初めて2人きりになった。 『ハルがしてるとこ見た?興奮しなかった?』 シンジは電子タバコを口に咥えながら、私に訊ねる。 「…いえ」 私が力なく言うと、 シンジは私をまっすぐ見つめて 『かわいそうに』 と小声で呟いた。 『ハマったら、もうたまんなくなるよ』 少し間をおいて溜息混じりに発せられた言葉。 シンジは、世間ではかなり名の知れた作曲家だった。 繊細で、人の心を搔き乱し、心を溶かす。 私は彼に出会う
【注意】自傷行為の描写を含みます。 セナちゃんは、いつも違うパートナーを連れてきていた。 骨ばった細い体に、ショートカットの赤髪と銀縁の眼鏡がよく似合うボーイッシュな女の子。 彼女は、自分の体を切りつけるのが好きだった。 腹も背中も脚も腕も、傷跡で赤く、撫でるとボコボコしていてとても美しい。 尊は嫌がったけれど、セナちゃんは時々私の目の前で手首を切って、ピンセットで脂肪を抜き取るところを見せてくれた。 私自身は自傷行為をしたことがなかったが、人が自分を傷つけている
パーティーに参加していた人物について、少し書いておこうと思う。 かほちゃんは、シンジのパートナーとしてパーティに来ていた。 普段は女王様をしているらしい。 線が細くて、やわらかくて冷たい肌をしていた。 黒髪のロングヘアに小さな口が印象的で、初めて見た時から、好みの女の子だと感じていた。服飾系の専門学校に通っていて、ハンス・ベルメールとかが好きそうなタイプだった。 職業女王様をしているけれど、プライベートではマゾヒストだった。私は、かほちゃんに対しては専らサディストにな
パーティーの主催者は「シンジ」としよう。 世間では、かなり名の知れた作曲家だった。 海を初めて金で買った日、私がホテルで流していたのも彼の音楽だ。 シンジの音楽は、私を一瞬で別世界へ攫ってくれる。私は、これ以上に音楽を欲したことがない。 後から思い出してみると、私は尊よりも、この男に必要とされかった気がする。でも、この男の話はまた少し後。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 初めての夜、私は静かに迎え入れられた
9月26日、19時40分。 前の予定とうまく時間が合わず、待ち合わせの20分前に歌舞伎町に着いてしまう。店に入るには時間がない。ウィンドウショッピングするような気分でもない。 路地裏で時間を潰すとき、新宿区役所脇の駐輪場は私のお気に入りの場所だった。ガードレールに寄りかかる。歌舞伎町でも比較的静かな場所で客引きもいないから、徒然に過ごすにはちょうど良かった。 待つ時間が長ければ、区役所横のルノアールと決まっている。 夜の仕事をしている人たちも多く、ほかの店舗とは全く違