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氷点下32度の私たちは

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カナダ、北緯63度、氷点下32度。 一面、白銀の世界。 私はあの極北の地で、全く別人格だった。 皆もだ。 あそこにしかいない人が、たくさんいた。 氷点下32度の私たちは…
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氷点下32度の私たちは|#1 レオの場合

<【前回】#0 北緯43度からの孤独 ジムから寮に帰ってきたその足で、 私は共同キッチンへ向かう。 喉がカラカラ。 クリーム色のドアの上部はガラスになっていて、中の様子を覗くことができた。 真っ暗で誰もいない。 はずだったのに、電気をつけてギョッとした。 台所の隅に、人がぽつんと座っている。 恐ろしいことに、何もしていない。 体育座りで、何を飲むでも食べるでもなく、 キッチンボードの上にただ座っている。 イギリス人のレオはいつも明るい男の子で、イベント事にも

氷点下32度の私たちは|prologue

カナダ、北緯63度、氷点下32度。 一面、白銀の世界。 部屋からは、ひらひら動くオーロラが見えた。 冬は朝11時前まで暗く、午後3時半には再び日が沈む。 夏は日付が変わる午前0時頃になっても明るい。 ダグラスは私のことを、陽の光を浴びた雪のように明るいと言った。 よく笑い、よく話し、時々芸術的だと。 自分でもギョッとする。 そんなこと、今まで一度だって言われたことなかった。 「明るい」なんて、私とは真逆の言葉だ。 『表情が読めない』 『結婚しなさそう』 『クール』