【ネタバレ有】APOFES2021『この世界に君の声はない。』感想

先日、配信アーカイブにてAPOFES2021の『この世界に君の声はない。』を拝見いたしました。

APOFES2021とは一人芝居だけを上演するフェスのようなものです。多くの演劇人が舞台上に一人だけで立ち、ある人は何役もを一人で演じ分け、ある人は自らの台詞だけで何もない空間に会話相手のイメージを浮かび上がらせる

今回観た『この世界に君の声はない。』はどちらかといえば前者のタイプで、主演・脚本・演出の悠果さんがある通信社に働く角野という女性を演じながら、それと同時にその彼氏や友人、同僚を巧みに演じ分けます。

悠果さんの演技力の高さは前々から知ってましたが、今回の芝居でそれが確信に変わりました。喋り方から表情、指先の動きに至るまで、一挙手一投足の全てがキャラクターごとに細かく演じ分けられているのです。

一人芝居はとかく中心人物のキャラクター(今回では角野)だけが目立ち、他の役はあくまでその引き立て役に過ぎません。

でも悠果さんの芝居では主役である角野と同じぐらい、他のキャラクターも血肉が通っていたように感じました。一人の人間が演じ分けていると思えないぐらい、それぞれ全然異なる表情や動きを見せるのがとても衝撃的でした。

物語もこれまた生々しいリアルな話です。

SNSや掲示板に巣食う顔なき大衆の声によって、真実は憶測や邪推の中で捻じ曲げられ、本来は彼氏を失った被害者である主人公・角野はいわれなき罪によって誹謗中傷を浴びる。
臆病な社会はそんな世間の声に怯え、角野を不当に解雇してトカゲの尻尾切り。

正義やリスクヘッジという大義名分のもとに角野の人生は壊され、段々と居場所を失っていく。それでも角野は奥歯を噛み締めながら、真実を突き止めるために必死に生き続ける……。

世間の理不尽さと容易にひっくり返る善悪、そしてそれに立ち向かう角野の強い生き様に心を打たれました。

こういった話は現実世界でも幾度となく起こり続けています。
単にひとつのフィクションとして消費するのではなく、これを現実の問題として心に刻み込んでほしい。そして二度と角野のような被害者が現れないでほしい。そういった願いも込められてるのかもしれません。

キャラクターを憑依させる高い演技力と集中力、そして自分なりの視点で切り取った社会の実情をときに美しく、ときにエモく、ときにスパイシーに調理する腕前。アクターとして、ストーリーテラーとして、とても素晴らしかったですし、とても面白かったです(上から目線ですみません…)

また悠果さんのお芝居があれば絶対に観に行きたいです。それぐらい好きな作品でした。

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