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カルディBSS──2023年5月31日

・京王線新宿駅のホームや改札口周辺には、通常よりかなり小規模なセブンイレブンが点在している。どのルートから来た顧客にも対応できるようにとの策略だろう。

・それらミニセブンイレブン群の大きさ・品揃えはまちまちである。3番線ホームのセブンイレブンは少し大きめだが、実は1,2番線ホームへ続く階段の脇にあるセブンイレブンの方が大きかったりする。

・だが、それを理解しているにも関わらず、セブンイレブンで何か買おうと思い立った瞬間にどのセブンイレブンが最も品揃えがいいかを忘れ、西口側の改札前の小さめのセブンイレブンで買ってしまったりする。今日も同じことをしてしまった。

・欲しいものがあったのにそれがなくて「じゃあこれでいいや」と違う商品で妥協したあとに、別のセブンイレブンで当初所望していた商品を見つけたときの、あるいは見つけないまでも「このセブンイレブンにはあったのではないか…?」と気付いてしまったときのやるせなさたるや、スマホの保護フィルムに取り返しのつかない気泡を作ってしまったときぐらいの落胆がある。




・街中でティッシュを配る人の中には、ティッシュを受け取ってもらえなかったときにも「ありがとうございます」と言う人がいる。

・そのままの意味に受け取ればティッシュを受け取ってくれないことに感謝している奇妙な光景だ。

・だがそう捉えるのは斜に構えすぎで、実際はその「ありがとうございます」に意味などない。何も言わないのは失礼だし、かといって「ごめんなさい」は卑屈すぎる。誰も傷つけないその場しのぎの言葉として「ありがとうございます」がティッシュの代わりに渡される。

・心や脳を通さずに発せられる、気持ちや意味が全く伴わない空虚な言葉。とりあえず「ごめんなさい」と言っておけば丸く収まる。何言ってるか分からないけど「すごいですね」と言っておこう。そんなふかしタバコのような言葉が社会に漂っているのは、何か面白い。シニフィエを伴わないシニフィアンというのは、言語学的にどういう扱いなのだろう。


 男は昨日、笹塚のカルディで「インドカレー屋さんの謎ドレッシング」なるものが売られているのを見咎めた。その名前だけで、足繁く通う近所のインドカレー屋のサラダにかかる鮮やかなオレンジのドレッシングの味を自然に想起させる。愛読するオモコロブロスの記事にも紹介されてたこともあり、彼はその商品がすごく気になっていた。

 だがあいにくその時は昼休憩中。荷物を持って職場に戻る煩雑さを考え、彼は「明日買おう」と冷やかしだけでその場を去った。

 そして今夜、彼は再びカルディに来た。店内を回り、プーパッポンカリーや杏仁豆腐を手に取る。だがどれだけ探しても「インドカレー屋さんの謎ドレッシング」が見つからない。まさか。忙しそうに品出しをする女性店員を呼び止めて訊ねる。彼女は申し訳なさそうな笑顔を浮かべ、「売り切れちゃいました」とだけ男に伝えた。

 彼は膝から崩れ落ちた。どうして……どうしてあのとき買っておかなかったんだ……自分の気持ちに素直になっていれば……そうすれば今頃は……。

 好きな異性への告白をためらってる内に別の男に取られてしまったような後悔に打ちひしがれながら、彼はとぼとぼと店を去るのであった。謎のドレッシングは、謎のままに。

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