善と悪――2024年8月28日

めっちゃ良かったな~~。こんなこと言うの偉そうだけど、私野台詞さん、記事を出す度に面白くなっている。この等身大な女の子って感じの妹のセリフは、私野さんにしか書けない。


貴志祐介『黒い家』を読み終えた。映画は数年前に見たことがあり、西村雅彦と大竹しのぶの怪演に恐怖した記憶がある。

原作小説だと、菰田夫妻の異常さもさることながら、主人公が勤める生命保険会社の内幕もつぶさに描かれていて興味深い。人間の生死を査定金額に換算する葛藤や、保険金の詐取を企む顧客達との醜悪な争いなど、知らない世界の内情が垣間見えて面白かった。


かように最近、貴志祐介氏の作品にハマっている。『悪の教典』や『新世界より』の原作者という認識しかなく、著書を読んだことは一度もなかった。

そんな中、Twitterで「二度と読みたくない作品」として挙げられていた『天使の囀り』が気になり、試しに読んでみることにした。これがとんでもなかった。

人々が次々に謎の死を遂げるパニックモノは数多くあるが、不快指数という点では、どれも本作には及びもつかないと思う。詳細は避けるが、人間が不快に思う要素を大量に詰め込んで、そこに理論と衒学的知識を加えてドロドロに煮詰めたような物語で、文字媒体でここまで吐き気を催したのは初めてだった。

俺が大人だったから良かったものの、幼少期にこの小説を読んでしまったが最後、二度と肉は食えなくなるし、動物園にも行けなくなる。

でもそれだけならただの悪趣味な小説で終わってしまう。そこを作者の貴志祐介氏は、ある伏線をラストに回収することで、作品を終始覆っていた絶望の闇を、まるごと希望の光にひっくり返してみせる。トラウマ小説として語られがちだけど(実際自分のその前評判で読んだが)、その構成が本当に見事だった。

『黒い家』もそうだけど、表面に見えるものだけで一義的にそれを悪だ、善だと決めつけてはいけない、というメッセージを感じ取れるのが魅力的だった。


『天使の囀り』の次は『青の炎』を読んだ。鎌倉に住む男子高校生が、愛する家族を守るために、殺人計画を立てる話。ホラー小説として書かれた他2作とは異なり、青春小説としての色合いが強い。

組み立てるトリックも隠蔽工作も、何なら殺人があらわになる失態も高校生らしい稚拙なもので、でもそこに若者らしい初期衝動というか、向こう見ずなところが感じられて、おかしいとは分かりつつ何だか優しい気持ちになってしまう。殺人の理由が徹頭徹尾「誰かのため」というのもいいんですよ。これも動機としての善と、手段としての悪という問題を投げかけているのかもしれないね。


とまあ小難しいことを言ってきたけど、単純に内容のセンセーショナルさといい、いい意味でペダンチックな文章といい、貴志祐介氏の作品は自分の好みをドンピシャで衝いてくる。

次は『クリムゾンの迷宮』を読んでみる。これも面白そうなので楽しみ。ただ毎回「グレムリンの迷宮」と間違えてしまうのが玉に瑕。

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