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これも旅か

 実家の近所を散歩しただけで、旅をしたような気になっている。

 近くのイオンモールまで、散歩がてらに歩いて十分。
 本屋、ユニクロを彷徨き、喉が渇いたのでスーパーで「いろはす」のレモンを買った。

 帰りも同じ道を通ったが、途中からなんとなくいつもの道を逸れてみた。公民館のすぐ向こうにある下り坂を左に折れると数メートルですぐ左右に分かれるので、それを、右(緩いカーブになっている)に曲がり、さらに右に折れると区民広場がある。
 今は地名から消えてしまったが、この辺りは原町一区、二区、三区に分かれており、この区民広場は区民の運動会や盆踊りが開かれ、地域の少年野球チームの練習にも使用される町民の憩いの場だった。

 ちなみに、子供の頃、僕も含めて周囲は皆この広場のことを「組広場」と呼んでいたが、正式には「区民広場」という呼称だと知ったのは大人になってからのことだ。
この広場を訪れるのも随分と久しぶりだ。前回がいつだったか思い出せない程だ。

 子供の頃近所の幼馴染と秘密基地を作った裏山が削られて住宅地になり、そして数年前にはイオンモールが出来た。イオンモールの誘致に成功したのと同じ頃、駅裏の開発が始まり、田んぼだった辺りも全て住宅地になった。
 便利になり、知っていた筈の街並みも随分と変わり、知っている筈の通りでさえもまるで知らない通りのような気がする。

 殆ど変わらないのはこの区民広場くらいだろうか。
 変わらない広場には、昔から変わらぬ親子の姿が、父親が娘に自転車の乗り方を教え、父親が息子と一緒に虫(或いは草花?)を探す姿があった。

 更新された新しい景色に昔の面影をみて記憶が呼び起こされる。変わってしまった街並みを見て、悲しいとも、寂しいとも思わない。
 ただ懐かしいと感じる。

 よく知る近所を歩きながら、ここを曲がったらどこに行き着くんだろう? 昔はどうなってただろう? と考えていると、ふと「これも旅に違いない」と思った。
 振り返ってみると、今年2月、3月に再訪したバンコク、カンボジアのシェムリアップでも同じように感じた。

 旅は近所でも出来るのだ。

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