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食器を買う基準1

一人暮らしを始めてから初めて食器を買った。

いや、たぶん人生で初めて、自分のための食器を買った。

いわゆる必要なもの以外で、自分のものは買う習慣がない。もので溢れかえって散財しては後悔に打ちひしがれる、でもキラキラしている姉と比べて、私はなんてつまらない…。いや、私には私の魅力があるって、頭ではわかってるんだけれど…。

食器を買ったことがないわけじゃない。でも、食器を買うときはいつも、それこそ姉が喜ぶかな、とか、両親が少しでも仲良く食べれるかもな、とか、同居人にウケるかな、とか思って買っていた。だから純粋に自分が使うための食器を買ったことがない。

でもこの食器はとくべつに美しかった。

入ったことのないお店の窓に、その皿はディスプレイの一つとして飾られていた。陶器なんだけど、まるで貝殻みたいな色。白ベージュみたいな基調の内側に、薄い青色と灰色のグラデーションがあって、金で縁取りされてるわけでもないのに、周りが金色に光ってみえた。アンティーク調のくすんだ金色のカテラリーが添えられているから、光って見えるのはその錯覚かも。とにかく金のスプーンがとても似合っていた。その窓の中のだけ、まるで絵みたいだった。

しばらく窓越しにその美しい皿をジッと見ていたけれど、当然、私だし、買うつもりなんて全くない。窓を通り過ぎてからはすぐに皿のことは忘れた。カフェに行って急ぎのメールを辟易しながらいくつか返して、本屋に行って予約していた雑誌を買ってから、さて帰るかと駅に向かった。

駅までの道のり、夕日が沈む空が見えた。ふとあの貝殻のようなお皿のイメージが頭をよぎった。

美しかったなぁ、と反芻した。まるで海沿いに住む人たちのために作られたみたいなお皿だったな。海、べつに好きでもないし、なんなら怖いくらいだけど、海ってどこか憧れちゃうよな。でもあのお皿、高かったしなぁ。でも1年着て捨てちゃうかもしれない服と同じくらいの値段だよね。お皿なら…しかもあんなに素敵なお皿なら、わりさえしなければ何十年も使うよね。でもあのデザインだとディッシュウォッシャーに入れにくいだろうし、水切りも悪そう。でもディッシュウォッシャー使ってないよね私。水切りは置き方の問題だし、一人暮らしなら私さえ気をつけてればさ。でも少し個性的な形ってことは、他の食器と重ねられないから場所を取るよね。…いや、重ねるもなにも、私のキッチンはスカスカだ。お姉ちゃんに引越し祝いで貰った素敵なお皿たち、金色の縁取りが多いからきっと、あのお皿に合うだろうな。一緒に使えるのは良いよね、いや、でもあのお皿そもそも金色の縁取りはなかったよね。…でもさ、でも私の目には光って見えたんだよね。

夕日は沈む直前だった。私は踵を返した。海辺に住む人たち御用達の、貝殻でできた、金の縁取りが美しい、私の初めてのお皿を買いにもどった。




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