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SAKETIMES記事のおまけ:酛の話


今回は酒母のお話でした。母と付くのに醪より小さいですよね。空母なんてでっかいですよね。母は大きなものですが、ペンギンなど鳥なんかは子供の方が大きい場合もありますね。あれは羽毛で覆われてるから大きく見えるだけなんでしょうかね。それとも生きてくうちにやっぱり飛んだり泳いだりするには大きすぎるな…となるのでしょうかね。母校、母音、マザーボード。意味合いとしては大事なものみたいなものですかね。父親はどうなんでしょう。なんにせよ酒母です。

酒母を今年担当させてもらったわけですが、今更かよと思います。やったことなかったんですね。麹屋が一番長くて8年の酒造経験のうち6年は麹屋だった。秋田時代は一関杜氏(天寿)に「一番面白いのは酛だよー 麹なんて忙しいだけの地獄」と言われそんなに面白いんすかーと思ったものだった。

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秋田は酛で色を出す蔵が多くて勉強になった。太平山発祥の秋田流生酛、新政に代表されるネオ生酛系、刈穂の山廃は旨いし、飛良泉のように酵母を操る蔵もたくさんある。花岡先生の功績なのかなーとも思うが、そういう環境にいて、酛屋をやらなかった事を非常に残念に思っている。

前にいた蔵も酵母を6種類くらい扱いながら速醸ありの山廃ありの生酛ありと毎日忙しそうだなと思う一方で「酛なんて放っといたってできる」と酛屋は豪語していたものだった。麹屋をやりながら足繁く見には行ったものの、香りがさまざまだなーという程度で、さっぱりだった。

んで今年姫路で酛屋を張れる事になって新天地で晴れて三役入りとなったわけだが(蔵人3人しかいないからね!)、やっぱり面白いなーと思った。ミニ醪みたいなもんですと良く説明しているけど、基本的に多酸環境で目的も違うので、醪とは違うけどなんか面白いなーと思った。唎き酛もほぼ毎日やっているうちに変化は捉えられるようになった。そういえばみんな大好き祐輔社長もよく「歯が痛いんだよねー」と言っていたけど、それほど唎いていたんだなーと思った。もう少ししたら歯医者行きます。

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もう一点酛についてはお話があり、刈穂で今年低温糖化酛というのを開発したそうだった。斎藤修杜氏の理論が結実したと言えよう。これについては修さんが何回か話してくれた事があった。「こういう風に造れるんじゃないかと俺は思っているし、やって見ている」という話を何回か。

そう、当時は酛についてサッパリだったので、全然わからなくて「あーそうなんすね いけるんじゃないすか?」みたいな感じで曖昧に返答していた。技師なのに。とは言えそこまでしっかり答えられる人はあの会社にいなかったな。一番理論をわかってたのが修さんだったな。それでずっと自分で考えて編み出した方法なんだろうなーと思う。どれくらい大きな実を付けたかというのはある年の全国新酒鑑評会で山廃純米の掛米美山で金賞獲ったと言えばわかるかも知れない。

考えてみると働いていた蔵の杜氏さんも酛が長かったと言うし、もし今の知見であの頃に戻れたら修さんの話も面白く聞けたろうなというのは今期何度も思った。おまけに夢にまで出てきてアドバイスをもらった。これはなかなか良いアドバイスで、おかげで上手くいった。不思議なものである。

ところでこの酛っちゅーものが、様々な議論を生む種になっているなとここ数年は思っていたわけなんですが、その昔、先輩蔵人が「世の中『なんちゃって生酛』ばっかりでよぉー 意味わからねぇよぉ」と言っていた事を思い出す。高精白時代に生酛をやる意味ってなに?みたいな感じだったけど、もっと深いような事も言っていた。が、例によって話半分で聞いていたのであまり覚えていない。本当に残念だ。

なんちゃって生酛が何を指すかとかは個人で考えてもらえたら良いんだけど、なんで生酛を選択するのか、それは生酛なのかと思う事は非常に多い。特にネオ生酛に追随しようとする蔵や新興のどぶろく製造者に於いては、本当にそれで生酛を名乗れるの?という製造方法もあるが、彼ら流の生酛なんだろう。じゃあ菊正宗がやっているのが生酛の本流なのか?と言われると長靴ふみふみを見て笑う人もあろうと思う。生酛の本流ってなんだろうね?酛ってなんだろうね。本流であるべきなんだろうか?

多分こういうものを追い求めるのはナンセンスだとも思う。自分でやりたい製法に対してアプローチをした結果が今やっている製法であるわけで。自分流でこれをこうして…と考えてやってるなら自己流製法だ。そしてそれはもう生酛の枠を外れてるものもあると思うよ。もう名乗っちゃえよ。なんとか流って。

今期は生酛の製造は無かったのですが(というかこの蔵はしばらく製造が無いが)、山廃は楽しかった。ここで来いというタイミングで乳酸菌が湧いたりすると本当に楽しい。味や見た目もいろいろ喩えて、覚える事が多くあったが、勘が働くようになったので体でも覚えてきた。これから先は山廃を極めていったら楽しかろうなと思ったところでした。

豆知識

清酒ホーロータンクの底は丘みたいになっていて、その部分を「坊主」と呼ぶよ。あんまり櫂棒でつつくとハゲるので注意。ないものもあります。