見出し画像

K-POPはなぜ世界を熱くするのか

タイトル通り、K-POP躍進の理由をマーケティング面やアイドルの育成方法や国策などの視点から解説しています。多分、とても鮮度が命の本で、今(2021年6月現在)読んだほうがいい本です。めちゃくちゃ面白いです。

国が推し進めるエンタメ事業
韓国は国策としてエンタメに投資した。エンタメだけでなくその土台となるインターネット分野にも力を入れて、EC化率が高かったり、国民のリテが高くなった。で、TikTokとかだけでなくいろんなプラットフォームがたくさん生まれ、そこを行き来するユーザ数も増えた。で、そこで、育てたエンタメを細分化したりいろんなバージョンでコンテンツ化する。完璧なパフォーマンス版、練習風景、推しだけ映る版など。

さらに、コンテンツの著作権をフリーにして、コンテンツをプロモーション素材として割り切って2次利用を奨励して2次使用料で利益を生む。YouTubeのcontent IDという承認システムを利用して、広告収益を分配してもらうことで、容認する。広告効果も見越して。

とにかくファンの力が強いし、ファンと共創する
韓国では、ストリーミング再生ランキングもメジャーな指標としてあって、アイドルが新曲を公開するとファンが再生数を上げる活動をする。勝手にファンがそれをTwitterとかで呼びかけてくれる。ランキングに入れるかどうか、が音楽番組に出るかどうか、各音源チャートのリアルタイムランキングに入れるかどうか、など影響を与えるから。競争心をあおる要素もある。日本では嵐がYouTube解禁してファンが同じように再生回数を伸ばす活動をしたことから日本にもこの流れは来そう。ただ、問題点もあって、YouTubeは無料だからbotによる視聴など不正ができてしまう。botによる視聴回数増を販売する業者が現れている。

そして本番のMVなどクリエイティブ制作には軽く日本の倍くらいの予算をかけて(通常7~800万円、超有名だと7000万円)作る。そしてそこに周到に伏線回収するようなストーリーのつながりを持たせる。宣伝自体がエンタメになっている。その作りこみが綿密で意味ありげであるほどファンが映像に映る些細な事にすべてSNS上で解釈を戦わせる。しかもその意味ありげな作り方は、本当に意味があったり、なかったりする。ファンが勝手に解釈したものに合わせて次回作を作る場合にあったりする、というインタラクティブ性がある。

韓国は日本と違って、新曲発表までに間、今から制作に打ち込みます、みたいな宣言をして露出が減る?みたいな期間があって、そのあと新曲リリースするため、カムバックと言われるらしい。

多分振り付けもコピー(カバー)されやすいようにキャッチ―なものにしていて、ファンが2次創作&拡散するのを狙っている。韓国ではストリートでもカバーダンスをする人が増え、集客力もあるらしい。そこで行政側も動き、1つのストリートをストリートダンス用に開放して、支援している。

発売時には、世界観を再現したポップアップストアを作ることすらある。そこでもやっぱりめちゃ売れる。でも、商品の売り上げに主眼を置いていなくて、商品の陳列よりMVの世界観の作りこみに力を入れて、ファンに没入感を味わってもらってロイヤリティを高めるという点に主眼を置いている。当然、来たファンは映え写真を撮って、SNSにあげて広告宣伝してくれる。

歌詞の内容にあわせて、江南にある花屋をポップアップストア化し、その店でバラの写真を撮ってSNSにあげたらシークレットライブに応募できる仕組みを作った。

BTSのファン、armyはアメリカの50州のラジオ局にそれぞれBTSの曲をリクエストするプロジェクトを自主的に行った。ファンのマーケティング能力が高い。そういうファンの支援で、アメリカの地上波にも呼ばれるようになる。

こんな強固なファンを作る仕組みとして、ブイライブという配信アプリがあって、アイドルがオフの様子を流す。その場でファンからの質問に答えたり、気軽にコミュニケーションを取れるようにする。そしてブイライブは誰でも配信できるわけではなくKPOPアイドルが配信する場なので、海外ファンにもわかりやすい。多分KPOP自体のファンという層を取り込める。翻訳もファンが投稿できるようになってて、むしろファンにしかわからない用語をすぐに意図を汲んで翻訳できるので強い。それにより、タイムリーに海外にも展開されていく。そしてその翻訳した人(チーム単位でもOK)はクレジットが乗り、活動量に応じてランキングも発表されてファンの達成感を刺激する。そして、この翻訳データはブイライブを作っているNaverのデータベースに吸い上げられ、彼らの諸言語の翻訳ツールの精度アップに貢献している。主なユーザー層10代〜20代の流行の言葉にも対応できるようになる。ホムマ(ホームマスター)というアイドルを勝手に隠し撮りして投稿するやつもいる。でも広報的な役割として強いから割と黙認されている。そういう違反行為に対しても、長期的な利益を考えて黙認するみたいなところが結構あるみたいに感じる。で、その撮った素材を使ってファンが独自のグッズを作って販売してたりする。その売上をアイドルを追っかける渡航費とかに充ててて、その収支をネット上で公開してるやつすらいる。

ファンが支援する独自の形があって、ファン同士の有志で、アイドルの誕生日に広告を出したりとかする。日本では肖像権的にこういうのにアイドルの写真は使えないが韓国では黙認されている。で、そのファン同士が同時多発的にサポートイベントをやって、それ目当てでファンが海外からも押し寄せるということすら起こる。クラウドファンディングでやることもある。しかもその広告支援が世界各国で行われている。

推しの名前で社会貢献するファンもいて、アイドル名義の学校立てたり、植林したり、BTSのコンサートの払い戻し金をコロナ対策に寄付したり。それはアイドルが社会課題に対して行動してたり意思表示しているから。

こういうファンがプロデューサー化するのは、人気番組produceシリーズの影響が大きい。もはや、ファンは単なる消費者ではなく、モノを言う有権者でありプロデューサーなのだと思う。それだけ熱狂的であるその分、スキャンダルや不祥事に対してのアクションも過激。

グループごとに綿密にコンセプトを設定していて、それを企画管理する人が、曲に合う歌詞のコンセプトを決めたりする。コンセプト、ストーリーがどんどん複雑化している。アイドル自身が作曲したり、多様化も進む。

アイドルも辛い
熱狂的なファンには欠点もあって、あまりにファンの影響力が強く、そして、ファンがアイドルに完璧を求めるあまり、社会問題に対して行動しないと批判される。問題を起こしたメンバーへ脱退要求安堵が起こったりパワーバランスがいびつになってしまう。

気づき、感じたこと

ファンが再生回数を稼いだりして、ランキングをあげることは厳密にいうと、本質的ではないと思う。結局、YouTubeにしてもテレビにしても、広告ビジネスなので、再生回数=集客価値があると、広告主は判断しないのではないかと思う。ランキングへの影響はあっても、その偏った視聴者層に広告を出したい広告主は限定的な気がする。

ファンの反応や解釈を取り入れて、次回作を作っていく方法や、次回作発表までティザーなどで伏線貼ったりするのは、他の業界でももしかしたら既に行われていることかもしれないし、転用できると思う。例えば、今から新作の準備に入りますって例えばアパレルブランドが宣伝してちょこちょこ新作のコンセプトや世界観を小出しにして、デーンって出すみたいな、ことはできそう。この時、圧倒的な商品力とファンベースが必須と思う。プロセスを売る、という考えと似てるのかも。プロセスを経てファンを獲得していって、それで商品を最後に出す、というお祭りなのだと思う。

韓国のエンタメがなぜダンスグループばかりに力を入れているのか、と考えたときにこのファンを巻き込むという要素があるのかなと思った。つまり、多分、同じミュージシャンでもバンドや無茶苦茶うまい歌手はマネしたくても難しいけど、ダンスはわかりやすく、マネしやすいという特性があるからファンの2次創作がされやすいのかもしれない。

実際にあるお店を楽曲に登場させるだけでなく、しっかり宣伝に活用しているのがすごい。歌詞の内容、つまり創作物と現実世界とつなげるのはすごいいい。世界観への没入と、広告宣伝を同時に行っている。

とにかくファンを大事にする手法が今風のやり方なのだろうと思う。SNSで誰もが発信できる時代だから、ファンに宣伝をしてもらう、というのはもはやどこでも聞く手法で、当たり前に思えるけど、ここまでの詳細なK-POPの事例を聞かされると、本当に時代はここまで来てるんだなーと衝撃を受けました。ここまでファンのロイヤリティが高くなってきて、依存度が高まると、かなり宗教と構造が似て来ると思う。ファンマーケティングを勉強されている方は必読と思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?