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【8月2日配信】「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」を観て、読んだら、現代の若者の戦争観を知ることができた話

「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」という小説がある。
汐見夏衛さんが執筆し、2016年7月にスターツ出版文庫から刊行。TikTokで話題になり、シリーズ累計発行部数100万部を突破している。2023年12月には映画化・公開された作品だ。(Wikipediaより)

<あらすじ>
親にも学校にも不満を抱える高校生の百合は、進路をめぐって母親とケンカになり、家を飛び出して近所の防空壕跡で一夜を過ごす。 翌朝、百合が目を覚ますと、そこは1945年6月の日本だった。 通りがかりの青年・彰に助けられ、軍の指定食堂に連れて行かれた百合は、そこで女将のツルや勤労学生の千代、彰と同じ隊の石丸、板倉、寺岡、加藤らと出会う。

https://youtu.be/op-4vT2s6Ok?si=uqsVmtMd2IfAlY7T

この作品の公開当時、主にJC(女子中学生)・JK(女子高校生)の間で話題になっている作品だとTwitter(現・X)で目にした。だが、恋愛が土台となった作品とはいえ、第二次世界大戦や特攻隊員を取り扱っている作品がなぜJC・JKに爆発的な反響をみせているのか、とても不思議だった。
今回は、「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」についての考察を行っていく。


劇場に観に行ってみた

謎を解明するべく、映画公開当時に作品を観に行った。
仕事帰りだったため、19時台の回だったが、劇場内に人が沢山入っていた。戦争を取り扱った映画は、中高年の男性が多いイメージだったが、なんと女性客が8割を占めており、なかでも若者が目立った。
友人同士やカップルで訪れている方も多く、上映前はきゃっきゃと楽しみにしているような笑い声があちこちから聞かれた。
上映が始まり、物語中盤やクライマックスでは鼻をすする音や泣いている声も聞かれた。上映終了し、出口へはけていく際は皆無言で、純粋な恋愛映画として楽しんでいたという様子は薄かった。
(純粋な恋愛映画を見た後は、友人同士できゃっきゃと盛り上がっていることが多いように感じるからだ。)
なにかが若者の心に刺さっていることは事実のようだ。

若者の戦争への意識が変化しているのではないか

さて、今まで日本での戦争を題材として取り扱った作品は、若者を客層として取り入れてこなかったように感じる。
「硫黄島からの手紙」(2006年)、「私は貝になりたい」(2008年)などは旧ジャニーズ事務所のメンバーが出演しているのにも関わらず、当時の若年層間でもあまり話題にはなっていなかったと感じるのだ。

硫黄島からの手紙(https://eiga-pop.com/movie/9640)

また、戦争を取り扱ったアニメ映画として「火垂るの墓」(1988年)が挙げられるが、こちらも当時の生活様式や状況がアニメという媒体を通して、手に取りやすく、なおかつ子供にも観やすく描かれているにも関わらず、若年層で観たことがある人は非常に少ない。
(これは、最近の金曜ロードショーが作品を放送しないことも大いに関連が深いと考えられる。)

火垂るの墓

加えて、今までは戦争についての話を祖父母などの年長者に聞くことで、少しでも身近に感じることができたのだが、戦争経験者が高齢化していることや核家族化していることからも、困難になってしまった。
そのため、若年層が目にしやすいSNS媒体を利用したり、手に取りやすい題材を入れ混ぜた作品を鑑賞することが、最も若年層に戦争を知ってもらうきっかけとなるのではないか。

そして今回、「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」は、恋愛を題材としながらも戦争・特攻隊を取り入れている点TikTokなどSNSで話題となっている点のどちらも確実に抑えており、また昨今のロシア・ウクライナ問題も重なり、若年層に戦争について今一度考える機会を与えた作品になったのではないかと考えられる。

なぜ本作が爆発的に流行ったのか

前章で、「今まで日本での戦争を題材として取り扱った作品は、若者を客層として取り入れてこなかった」と書いた。これは、今までの作品が戦争によりどういったことが起こったのか、流れや出来事を大まかにでも良いので知っていること前提で進められていたためと考えられる。
例えば、「硫黄島からの手紙」(2006年)は、硫黄島の戦いがモチーフだろうし、「火垂るの墓」(1988年)は、兄弟2人で親戚の家に学童疎開している。これらの作品どちらにも用語説明があるわけではなく、場面を見て判断する必要があるが、私たちは硫黄島の戦いも、学童疎開も耳馴染みのあるキーワードである。しかし、核家族化・戦争経験者の高齢化・戦争を扱う映画が馴染み薄い現在では、若者が必ずしもこれらのキーワードを知っているとはいえないのである。
これを踏まえて、本作を観る・読むと、読者である若者が戦争に触れやすくしている工夫が散らばっているのである。

読者である若者が戦争をテーマとした本作に触れやすくしている工夫

  • 主人公が女子中学生(小説版)・女子高校生(映画版)のため、読者が感情移入・世界観に浸りやすい

  • 適宜、簡単な用語説明が入れられている

  • 現在を生きる女子学生視点で話が進むため、現代の価値観が所々に入れこまれている

劇場での客層やTikTokでバズったことから、主な読者層は女子中学生や女子高校生であると考えられる。読者層が主人公である百合と年齢が重なるが、これにより感情移入、世界観に浸りやすくしているのではないかと考えられる。
また筆者が面白いと感じたことは、現在を生きる女子学生視点で話が進むため、現代の価値観が所々に入れこまれていることである。従来の戦争をテーマとした作品は、戦時下で生きる者たちを題材とすることが多かったが、今回はタイムスリップした女子学生視点で話が進んでいる。これにより、従来の作品では描かれなかった疑問がストレートに表現されている。これにより、現在を生きる女子学生が違和感なく世界観にのめり込めるのではないかと考えられる。

終わりに

終戦してから79年経った。戦争経験者の高齢化が進み、経験者の生の声を聞く機会もどんどん失われつつある。
加えて、昨今のロシア・ウクライナ間の戦争からも、再度戦争が起こってしまう可能性がゼロではなくなってしまった。

8月2日からAmazonプライムにて配信開始した。この機会に是非観てはどうだろうか。

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