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強くなれそうなコスメください

20代半ばの頃である。
先輩が好みど真ん中の人を紹介してくれた。
同い年で背が高い飄々とした人。

共通点が多く話が合い、何度か2人でご飯に行った。
マイペースだけど思いやりがあり
たまにシュールな一言を発する彼に
私は夢中になった。

彼からの連絡に一喜一憂し、
食事に誘われたら服を買いに行き、
たまに甘い言葉を投げかけられるたびに
彼と付き合う近い将来を妄想した。

ある時、2人で星を見に行くことになった。
周囲には絶対に告白されると囃し立てられ
私もその気になっていた。
1日かけて水族館や美術展を巡ったあと後、
日が暮れた海辺で煌めく夜景と星を見ながら
とりとめのないおしゃべりをした。

いつ告白されるんだろうとドキドキしていたが、
色っぽい雰囲気にはなかなかならず
趣味の話とか仕事の話とかをしていたが
3時間も経つとお互い疲れて口数が減った。
気が付けば肩が触れ合う距離にいて
ふと目が合うとそのままキスされた。

俺ラインとか適当やからごめんな、とか
これから2人でいろんなと行こう、とか
これからを想像させることを言われて、
言葉にはされていないものの
付き合うことになったのだと思い浮かれた。

さすがに付き合ってそうだけど、
相手が悪かったら遊ばれてる可能性あるよ。
一応言葉で確認しといたら?
周囲にそう促され、次会うときに聞いてみた。

私たちってどういう関係?
遊ばれてる可能性あるよと言われたんだけど…

そう聞くと、彼の目は泳ぎ
聞いたことないくらい多弁になった。

「いつかは付き合いたいとは思ってるよ。
でも、まだ出会ったばっかりで早くない?
付き合うなら俺から言いたいし。」

じゃあ、彼氏いるか聞かれたら
いないって答えたらいいの?

そう尋ねると彼は

「それは彼氏いるでいいんちゃう?
俺も気になる子いるって言ってるし。」

と、答えた。

振り返って考えると
言ってることが支離滅裂で
完全にキープされているのだが、
恋で頭がパーになってた私は
「えっ、そのうち付き合うんだ」
と、無駄なポジティブが炸裂していた。

向こうからの連絡が徐々に減り
紹介してくれた先輩から、
「脈ないよ、どんまい」
と励ましの焼肉をおごってもらったのは
1か月ほど経った頃だった。

今まで友達から恋人へという
無難だが大切にし合う恋しか
したことなかった私は、
そんな雑な扱いをされたことに
多大なショックを受け、
浮かれていた愚かさに落ち込み、
なにより失恋のつらさに
分かりやすくボロボロになっていた。

ただ、あまりにも落ち込み続けると
落ち込むことにも飽きてきた。

どうにか自分を奮い立たせよう。

きれいになって自己肯定感上げようと
阪急百貨店に向かった。
込み合ったコスメカウンターには
きれいな人がひしめき合っていた。
意気込んできたものの
頭はぼんやりしていた私は、
ふらふらとLUNASOLのカウンターに
流れ着いた。

きれいなBAさんが、
「なにかお探しですか」と
声をかけてくれた。

この心情をどう説明していいか分からず
馬鹿正直に答えた。

「失恋したので、強くなれるコスメください。」

BAさんは力強く頷き、
ブラウンリップを用意してくれた。
LUNASOL
エアリーグロウリップ 08番

こんな茶色?と驚いたが、
いざ唇に付けると、一気に顔が変わった。
肌の色は暖かく明るくなり、
自然と表情も引き締まり
我ながら、綺麗な人になれた。

当然そのまま購入し、ずっと愛用している。
付けると自信が沸き、自分が好きになる。
他にもたくさんのリップを試したが
そのブラウンリップを超えるものには
出会えていない。




そんな私のベストコスメだが、
2020年1月に廃盤になっていた。
私の自信は、あと7mmほどしか残っていない。


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