見出し画像

肌寒いの個人差よ

10月中旬に秋田へ旅行に行った。
3泊4日かけて秋田を満喫し尽くすぞと、同行した先輩とともに意気込んで挑ん旅だ。先輩のやる気を反映してか、先輩のスーツケースは私の倍くらいの大きさがあった。
その日の秋田は快晴で、飛行機から降り立ったら眩しい日差しに照らされた。
半袖でも全然いけますね、などと先輩と話しながら、レンタカーに乗り込んだ。

一日目は青森との県境まで向かい、白神山地のトレッキングを行った。
仕事では先輩の背中を追いかけてばかりなのだが、ブナ林でもやはり同様にズンズンと進む先輩の背中を追いかけていると、いつの間にか半袖でも汗ばんでいた。

二日目は小雨が降る中、男鹿半島経由で南下していき、海鮮を食べたり、なまはげを間近で見たりしながら秋田市内に向かった。
晴れ女の先輩は旅行で雨が降った経験がほぼないらしく、写真の空が青くないことが許しがたいようで、天気に対して「なんでやねん」と繰り返していた。
「旅行なんて1回くらいは雨降るもんすよ」となだめていた私は、先輩に雨女認定された。
この雨で、秋田の気温は一気に下がった。

三日目もまた雨で、角館の武家屋敷を傘を差しながら巡った。
紅葉にはまだ早く、緑色の木々からは水が滴り、それはそれで風情があった。
その日は乳頭温泉郷の宿に泊まった。そこがもう最高の宿で、たった30年ぽっちしか生きていないが、人生で一番好きな宿といっても過言ではなかった。これはまた別の機会に語りたい。

乳頭温泉郷ってやつは山奥の狭間にあり、くねくねした道をのぼりにのぼってようやくたどり着くところなのだが、道中の道路情報板に明日の天気が掲示されていた。-3℃だった。マイナス。人生の99.9%を瀬戸内海から太平洋にかけての温暖な気候で過ごしている我々にとって、マイナスの表記は恐怖だった。怖すぎるので考えるのを一旦やめて、その日の夜は温泉に入り酒を飲んでぐっすり寝た。

翌朝、極寒の現実に直面した。私が持ってきた荷物には、最も暖をしのげそうなものでも、ちょっと厚めの生地のパーカーしかなかった。ちらりと先輩を見てみると、ばかでかスーツケースの中にはヒートテックや厚手のストールが並び、スプリングコートまで用意されていた。敵わない。さすが先輩だ。憧れの先輩。ああなりたいけど自分には無理かもと思うほどに憧れる先輩。説教臭さなど一ミリもない先輩だが、「予習・準備が大事や」とは仕事でよくよく言われてきた。それが旅行でも生かされているとは。

ただ、用意周到な先輩でもマイナスの気温は予想しておらず、スプリングコートでは太刀打ちできなかった。結局二人そろって3泊4日分の服をすべて重ね着して、着ぶくれダルマ2体で宿を出発することになった。玄関ではYシャツに半被姿のおじさんが待ってくれていた。荷物を車まで運んでくれるらしい。
玄関を開けた途端に流れ込んだ冷気で一気に凍え、ガタガタ震えながら車まで小走りする着ぶくれダルマたちを横目に、余裕の表情で車までたどり着いておじさんは言った。


「今日は肌寒いですね~!では、お気をつけて。」



ネイティブ秋田人の体感気温どないなってんの?




#この経験に学べ #わたしの旅行記

この記事が参加している募集

#この経験に学べ

54,854件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?