スイス3 霧の中でのピラトゥス・ライフ(コンチキツアー1−12)
ずっと参加したかった、英語を使った国際ツアー「コンチキツアー」での思い出です。
旅にまつわる音楽を聞きながら、記事をお楽しみ下さい♪
ゴンドラでピラトゥス山へ
ハイキングや景観が楽しい場所の一つ、ピラトゥス山。
「山」というと、富士山のように遥なる道のりを想像するが、ゴンドラやケーブルカーで、30分から一時間弱であっという間に頂上につけてしまう。
登山やアウトドアが苦手な人にも優しく、さすがは世界有数のバリアフリーの国、スイスだ。
コンチキツアーで私達も、ルツェルン湖をクルーズした後、ゴンドラリフトで一気に2100mのピラトゥス頂上へと向かう。
乗り物はいくつになっても楽しく、私達はゴンドラが宙に浮いた所で歓声をあげた。
「かわいいベルの音が聞こえない?」
「ほんと。あっ、牛だ!」
その光景はまさに、ハイジとペーターが牛と戯れている場面と似ていた。
「私達、“アルプスの少女ハイジ“が誕生した国に来ているんだなぁ」
「Rinaがよく話してくれる“ハイジ“、絶対アメリカに帰国したら見たいわ!」
同じゴンドラに乗ったツアーメイト達はますます、「ハイジ」に興味を持ってくれた様だった。
楽しみにしていた山頂。しかし……
ふもとでは時々、ほんの少しだけ太陽が姿を表しそうな時もあったが、頂上に上がれば上がるほど雲は厚くなって来た。
そして頂上はびっくりする程、どんよりしていた。
「え、ツアーの案内に乗った頂上からの写真と全然違う……」
「霧で、美しい景色なんて何も見えないし!」
「ちょっと、あの掲示板見てよ。今、“0度“だって……」
「スイスって、北半球だよな?真夏のはずなのに!」
あまりの寒さに全員、宿泊ホテルのピラトゥスクルムに逃げ込む。
「もう、外に出る気がしないや。ホテルのエステでもしようかな」
「僕らはラウンジで、早速飲もっか」
少し上の世代はホテルで優雅に落ち着き出したが、体力を持て余している学生や20代前半の仲間は、浮かない表情のままだった。
「せっかくピラトゥスの頂上まで来ているのに、ホテルに閉じこもってるのも残念だよね」
「ジュリア、分かるよ!展望台や岬や、見るものいっぱいあるみたいだよ」
「よし、厚着して行ってみよう!」
白い海
寒い風が身体に突き刺さる中、10人弱の私達は身体を寄せ合いながら、ピラトゥスの見所であるオーバーハウプト展望台、エーゼル岬展望台などを訪れた。
しかし、どこに行っても景色は、霧に包まれ真っ白だ。
「ここまで何も見えないって……もはや“白い海“って感じかな」
「あははっ確かに。ある意味笑える思い出になるよな」
霧で思い出される印象的な場所が世界で数カ所あるが、このピラトゥスも今も上位にランクインしている。
天気に逆らって行動していた私達だったが、ついに観光を諦めて、ホテルライフを楽しむことにした。
意外な所でのピアノ演奏
歩き疲れた足を休めようとカフェに行くと、そこにはピアノがあった。
「わあ!ピアノがあるじゃない。Rina、ピアノ弾かせてくれない?」
「聞きたい!私、ちゃんと写真係するよ!」
「僕もちゃんとビデオ係するよ!ほらほら、椅子に座って、お願いします!」
少し落ち込み気味だったツアーメイト達に、元気が戻って来た。
ここで、彼らの気分を再び盛り下げるのもかわいそうだ。
「下手かもしれないけど、許してね。宿題に出てる曲、弾いてみる!」
夏休みの宿題だったベートーヴェンやショパン、スクリャービンは、ピラトゥスのアプライトピアノからなかなか味のある音で登場してくれ、ツアーメイト達には思った以上に喜んでもらえた。
「Rina、Bravo!あなたとルームメイトになれたことを、改めて誇りに思っちゃう!」
「君のピアノ、ウィーンか日本でしか聞けないと思ってたけど、こんな所で聞けるなんてラッキーだよ!」
「Rina、弾いてくれてありがとう!有名になる前にサインを書いて!出来たら日本語で!」
先程までと空気が変わり、外のどよんとした天気とは正反対の明るい空気が、カフェに流れこんで来た。
「Rina、ピアノ弾いてくれたからご馳走するよ!何を飲みたい?」
「嬉しい!うーん、極上に甘いホットココアがいいかな」
チョコレートでも有名な国、スイスのホットココアは、どこのカフェでも美味しかったが、身体が冷えている時のココアは、これまた格別だ。
ピアノをやっていたことで、曇っていた人の心を晴らすことができた。
「音楽の力って、やっぱりすごいなぁ……」
こうして、一見全く音楽に関連がなさそうだったコンチキツアー中にも、私はピアノの、音楽の力に気づかせてもらえたのだった。
演奏で、ますます深まった絆
ピアノを弾いたことでツアーメイト達は予想以上に喜んでくれ、カフェでのピアノの話は、ディナーの時もその後のパーティーの時も続いた。
大人のケーキを食べてしまった日本の女子大生は、ウィーンで勉強している音大生として、毎日のように関わるツアーメイトとも、上の世代のツアーメイトとも関係が深まった。
「Rinaの演奏、本当に素敵だったんだから!その内、このホテルの専属ピアニストとして雇われちゃうんじゃないかな」
ルームメイトのジュリーは、ディナーを一緒に食べたティム3番と彼の従兄弟のカナダ娘・コニーにも、カフェのことを生き生きと語ってくれ、宣伝係のプロになれそうだった。
「どうして、エステに行ったのかしら……残念だったなぁ」
「僕も、昼寝してなきゃ良かった。ディナーの後もう一回弾いてよ、Rina!」
「残念!カフェはもう閉まったのよ、ティム3番」
欧米の定番の名前は、重なることも
私達は、ティム3兄弟の話題でも盛り上がった。
それぞれ、別の国・地域から参加していたが、全員ニックネームが「ティム」だったため、彼らはそれぞれティム1、2、3番と名付けられ、3人は世代(1.30歳前後、2.20代後半ば、3.20代前半)を超えて仲良くなっていた。
「僕、兄弟がいっぱいできて嬉しいよ!コニーのショッピングの荷物持ち以外にも、いっぱいしたいことがあるしね!」
「そんなに、持たせてないわよ。でも、パリでは覚悟しておいてね!」
「怖っ。でも、僕がパーティーで先に酔っ払って、荷物を持てる状態じゃなくなってるかも!」
このカナダから来たコニーとティム3番も、ジュリーと同じく毎晩遅くまで、本当に元気だった。
また3人のティム兄弟はツアーが終わるその時まで、ジュリーや私のボディーガードも勇敢に務めてくれた。
地下バーでのパーティー
雨で観光が出来なかった分、ディナー後の地下バーでのパーティーには、ほぼツアーメイト全員が参加した。
アメリカの父・ダン、ツアーガイドのルーカスは事の他、ジュリーや私を娘のように可愛がってくれた。
みんなで列をなして歌い明かしたり、上の世代の人達にホテルでのエステや人生について教えてもらったり、同世代の兄弟姉妹と心行くまで踊り狂ったり。
そこに他のグループも混ざり、時間が経つごとに地下バーのパーティーは、ますますの盛り上がりを見せた。
踊りが大好きなルームメイト・ジュリーの影響で、私も最後まで残ったツアーメイトの中の一人となってしまった。
踊り疲れとアルコールが相待って、最後は足元が危なくなっていたが、ジュリー、カナダのコニー、アメリカの父・ダン、オーストラリアの姉教師・ケイト、オーストラリアの弟・ルイス、この頃から急激に仲良くなった、ティム3兄弟、ブラジルのガルシア達がボディーガードをしてくれていたからか、翌日も安全に、笑顔で目を覚ますことが出来た。
豊かな国での楽しみ方は、無限大
「Rina、おはよう!今日でスイスとお別れなんて、早いね」
「結局、スイスはほとんど晴れてくれなかったね。でも、ジュリー達のおかげで昨日も、予想以上に楽しかった!」
「私もよ!ハイキングがほとんど出来なくて凹んでたのが、嘘みたい。ホテルライフも、コンチキツアーと一緒なら楽しさ倍増ね!それでRina、荷物入りそう?」
この日もジュリーにスーツケースのパッキングを手伝ってもらい、私達はウキウキが止まらない中美味しい朝食をとり、リヒテンシュタインへと向かった。
美しい景色や、ハイキングでの清々しい空気が魅力の高原や山頂で、雨や霧に遭遇すると、気分は落ち込みがちになる。
でもその分、「ホテルライフを楽しみ尽くす」という選択肢があることも、豊かな国・スイスと、時がゆったりと流れるピラトゥスからは教えられた。
曇りや雨の日の楽しみ方ーお天気が変わりやすいスイス・ピラトゥスで、ぜひ開拓して頂きたい。
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