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授業でのスピーキングテストで得られる3つの効果

都立高校入試でスピーキングテストが導入され、今週の日曜が実施日となっています。

中学校の授業内で、スピーキングテストを入れている先生は多いのではないでしょうか。私もスピーキングテストは生徒の英語力、そして英語を学ぼうとする意欲に有効だと考えています。ですので、入っている学年で何か決まった取り組みがない場合は、本文の音読テスト、暗唱テスト、リテリングなど、実際に英語を口に出させる取り組みをさせるのが好きです。

最近、中学2年生でスピーキングテストを行いました。内容は2分間AETから英語で質問され、それに英語で答えるもので、答えの流暢さや内容、伝わる声の大きさかなどを評価するものです。質問される内容は、あらかじめ10個ほど提示し、授業内で練習しておきます。本番ではそのうち3個ほど質問され、生徒の答えに応じて、より突っ込んだ質問がされる場合もあるというものです(例えば、Which country do you want to visit? と聞かれ、I want to visit Australia. と答えたら、Why? What do you want to do there? What do you want to eat there? )。

こちらの学年は、スピーチや音読テストなど、英語を口に出す練習をあまりしてきていないということでした。ですが、今回やってみて、生徒たちは自分の結果からいろいろなことを学んだように思います。このことから、中学校の英語の授業でスピーキングテストを実施することによって得られる3つの効果を自分なりにまとめましたので、ご紹介します。

①英文暗記の効用を得る

②頭の中でのリハーサルを体験させる

③達成感を味合わせ、モチベーションを保つ

①英文暗記の効用を得る

 スピーキングテストでの質問は、あらかじめこちらで選び、答えを練習させておきます。それを覚えて言わせるというものです。いわば、決まった(あるいは自分で考えた)英文を暗記し、それをアウトプットするという課題を与えています。

 この英文暗記の効用について、以下を引用します。


1960年代までのオーディオリンガル教授法の時代には、例文やダイアローグの暗記が重要な学習活動の一部でした。その後、教授法は、オーディオリンガルからコミュニカティブ・アプローチの時代に移り、例文暗記は人気がなくなりました。(中略)実は日常言語のかなりの部分が決まり文句で構成されている、という研究もあります。
 第二言語のデータベースを増やし、自然な表現を身につけるために、特に母語と第二言語の距離が遠い場合は、よく使う表現や、例文、ダイアローグなどを暗記することが効果的でしょう。

白井恭弘『外国語学習の科学』岩波新書

私自身、高専の授業で中国語を学び、授業でペアでの会話暗唱やスピーキングテストを課せられた結果、外国語を話そうとすると英語よりも中国語のほうが先に口から出た、という経験があります。例文やダイアログ暗記は、実際には使えないのではないかという考えを聞くこともあります。しかし、それをアウトプットする機会もしっかり与えると、覚えたものを自分の言葉として使えるようになると思います。これを、中学生の間からどんどん積み重ねていくことはとても大切なことでしょう。

 なお、今回のスピーキングテストで出される質問は、光村図書の検定教科書『Here We Go』の帯教材「Let’s talk!」や、瀧沢広人先生の『中学生のためのすらすら英会話』から出題しました。

②頭の中でのリハーサルを体験させる

 日本に住んでいて、中学校の英語の授業だけを受けている環境では、当たり前ですが実際に英語を話す練習が不足します。ですので、スピーキングテストなどの機会がないと、生徒が頭の中で英語を話す「リハーサル」をする必要もないということです。これでは、話す力はつきません。日本に住んでいる中学生は、実際に「英語を話す」必要性を感じにくいのが現状です。親や先生からいくらやりなさいと言われても、素直に言うことを聞いて努力できる生徒は多くないでしょう。

 しかし、社会に出ていざ英語が必要になった時、残念ながら英語を話す力は一夜漬けではつきません。徹夜でテストは乗り切ることはできても、英語でのコミュニケーションには通用しない、このことは私が第二外国語を学んだ先生が、本当によく口にしていたことです。

 学校での学習には、良くも悪くも強制力があります。英語を口に出す練習の必要性がその時には分からなくても、先生側から課題を出すことによって取り組ませることができます。スピーキングテストという課題で、中学生に少しでも英語は話す機会を与え、そしてそれに向かって自分で練習をする体験をさせてあげたいものです。

③達成感を味合わせ、モチベーションを保つ

 日本人教師やAETの前で英語を話すなんてことは、普通の中学生にとっては高いハードルです。テスト前の生徒たちは休み時間も返上で友達同士練習し、手に汗握りながらテストに挑みます。ですが、その高い壁をなんとか乗り越えた生徒たちの顔には、大きな達成感がにじみます。終わった後に感想を書かせると、様々な答えが帰ってきます。「緊張して死ぬかと思った」「意外とできて驚いた」「いろいろ考えて練習したけど、つっかえてしまって悔しい」「またやりたい」「もっと準備すればよかった」…彼らはこのテストを通じて自分を試し、実力を知ることができます。上手くいっても行かなくても、ここまでの彼らの努力を評価し、継続的にチャレンジさせることによって、教員は彼らの英語学習を励まし続けることができます。

 私はこの③番が、実は1番意味のあることだと思っています。①、②でスピーキングテストの意味について述べてきましたが、残念ながら生徒の英語力を劇的に向上させるものではないと思うからです。

 まず、スピーキングテストなどアウトプットする機会は、毎日少しずつ継続することが好ましいです。中学校では、現状定期テストや単語テストなどの筆記試験が評価の多くの割合を占めます。スピーキングテストを頻繁にすることは時間的に厳しく、学期に一回できればいいと考える先生も多いでしょう。また、適切に評価できるかというのも問題です。AETに任せたり、AETとの会話を日本人教師が評価したり、またクラスで受け持ちの先生が違えば公平ではないのではないか、という話も出てきます。声の大きさやアイコンタクト、発音などは個人によっても感じ方が違うでしょうし、ビジネスパーソン向けのスピーキングテストのように、AIを使った評価が普通の中学校でされるなんてことは、夢のまた夢です。実際には参加することに意味があり、正直あまり差がつかないテストでもあるでしょう。

 ですので、スピーキングテストはクラス全員が参加できるような配慮が必要です。暗唱でいくかプリントを見るのか、レベルを設定して自分で選ばせる、授業の中で必ず準備、練習、タイマーを使ってのリハーサルをし、生徒任せにしないことが大切です。筆記ではさっぱりな生徒が、意外とノリと度胸で乗りきりAETからいい評価をもらうなど、意外な一面を見られるのもスピーキングテストのよいところです。

 英語習得には時間がかかり、彼らには中学を卒業した後も学び続けてもらわなければなりません。なかなか普段の授業では培えない「実際に英語を話してみる」という体験をスピーキングを通して与え、モチベーションを保つ手助けができればと思います。

今日は、授業でスピーキングテストを行うことによって得られる効果について、3つお伝えしました。

①英文暗記の効用を得る

②頭の中でのリハーサルを体験させる

③達成感を味合わせ、モチベーションを保つ

 スピーキングテストは、筆記のテストでは味わえない緊張感と達成感を彼らに与え、学んだ英語のアウトプットの必要を(強制的にでも)せまることができる活動です。工夫次第で苦手な生徒も逃げ出すことなく参加させることができます。終わった後には必ずほめ、英語でのやり取りができたことを実感させてください。このように励まし続けることが、中学校の英語の先生の大きな役目だと思います。
 

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