草の娘物語〜グラスランド〜【Season 0.5 ハナと伝説の花編】
>物語に登場する草の娘ちゃんがどんな娘か、キャラクターガイドブックをみながら楽しく読もう!
−第1話−
ピカァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!
その光りは、ほこらの中で家族と一緒にスヤスヤと眠るクマも、静かな海をプカプカと漂うイルカのカップルも目を覚ますほどの、強い輝きを音もなく放ち続けました。
?「まぶしい…!」
その光りは、10階建てのマンションを360°全部を照らして、閉め忘れていたカーテンのある7階の一室の窓から差しこんできました。
そのおかげで、住人が寝ていた部屋の中が掃除されておらず散らかっている様子を映し出されて、部屋の主はちょっとヘコんでいる様子です。
?「これは……?」
その光りは、一人用のテントから顔と上半身だけを投げだした姿の後ろにしっかりと濃い影を映し出していました。
淡麗で毅然としたスラリとしたカラダのラインも分かるかのように。
?「え…なになに!?ちょ、起きて起きて!!」
?「ん…?お姉ちゃんおはよ…」
?「おはよーじゃないよ!お外みて…!!」
?「んん…?朝…じゃないの??」
?「3時……?わ…眩しいぃ…」
その光りは、夜中にも関わらず晴天の朝に昇る太陽よりも激しく降り注ぐ眩い光で、無理やり起こされた寝起きの妹の寝ぼけたまぶたを、さらに塞ごうとしているようでした。
?「………」
その光りは、真っ暗な森林の中にポツンと建っている小さな家の小さな窓の中にも無造作に差しこみ、まるで新しく取り替えたばかりのLED電球を何十個も同時に点灯したように、部屋の中いっぱいを明るくしました。
小さなその輝きに家の住人は驚く様子はなく、むしろその光りの輝きが発光されるのを待っていたかのように身じたくをはじめました。
?「なになに…?この光り…夜中の3時すぎだよ…」
その光りは、海に囲まれた小さな島にある平和な村を包みこみ、その美しい輝きに導かれるように窓から顔を出す村人、木製の玄関ドアを開ければぞろぞろとパジャマ姿で庭にでてくる村人達は皆で同じ方向の空を仰ぎました。
そんな中、かわいい羽をピクピクッと動かす程度の反応だけで、ギラギラと照らす光りをもろともせず心地よいベッドの中で、夢を見つづけて起きない子もいるみたいですが…
じつはこのかわいい寝顔の子こそ、この物語『草の娘物語』の主人公『ハナ』なのです。
?「すぴ〜、すぴ〜」
まったく起きる様子のないハナちゃん以外の人々にとってその光りの輝きはそれはそれはとても永く明るい夜で、見る人の目と心に焼きつくような神秘的な現象でした。
ハナ「ぐぅ〜、むにゃむにゃ…」
その光りでも起きることのないハナちゃんは、不思議な夢を見ていました。
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ハナ「んん?これって霧…かな?何も見えないよ…」
今のハナには自分の手を見るのがやっとのようで、前後左右上下に目をやっても一面まっしろです。
怖くて歩きだす勇気もでないようです。
ハナ「ちょ、ちょっと〜…だ、だれかいませんかぁ〜…」
とてもまわりに響く声の大きさではありませんよ。
天真爛漫で好奇心旺盛なハナちゃんもさすがに怖いらしく、うまく声が出せない様子です。
返答はもちろんありません。
ハナ「も〜…ここってどこなのかな…どんぐり村じゃないっぽいけど…。」
ハナちゃんがボソボソと独り言をつぶやいていると、しだいに濃霧が晴れだしてきており、手元しか見えなかった視界も足元まで見え、うっすらですが辺りも見渡せるようになってきたじゃないですか。
ハナ「あっ、ちょっと地面見えてきたかも!」
そう言いながらハナちゃんは少しづつ視界の開けてきた方に向かって歩きだしました。
ハナ「ふぇ〜、なんか不気味だなぁ…」
少し歩くと(体感では2〜3分ほどでしょうか)霧が薄っすらと晴れてきたこともあって、ハナちゃんの目の先には遠くの方に光りの粒が見えてきたように感じました。
「あれ…光り?なんか下のほうに…」
光りの粒がハッキリと目に見えるほどに近づいた頃にはあの濃い霧はほとんど晴れていましたが、ハナちゃんはそのことに気づかず見つめていました。
その光りの粒はハナが濃い霧の中歩いていた、幅が20m〜25mほどあるだろう巨大な石橋の端から見下ろすことでしっかりと目に飛び込んできたのです。
「うわぁー!すごい!!あれって…グラスランドだよね!!!」
誰がどう見ても落ちれば危険だろう巨大な石橋を歩いていたという恐ろしい事実をまったく気にする様子のないハナは、膝をつき両手を橋の縁をギュっと掴み、興奮していました。
「なにこれ!?夢みたいだよ!?」
はい。夢ですよ。ハナちゃんの思ってるように、これは夢の中の出来事なんですよ。
ただしとってもリアルに近い夢ではあるようですが。
「あそこの白い所はなんなんだろ…」
「あっちの緑がいっぱいの所はなにかな…」
「こっちの光りが集まってる所はどこらへん…」
もともと好奇心が人一倍、いや十倍ほど高いハナちゃんは憧れの大地であるグラスランドを眼下に、いろんなことを妄想してしまっています。
そんな妄想をしているハナちゃんの頭の中にとっても小さな声でする話し声が聴こえてくるのでした。
?「どうしてこんなことに…」
?「…どうしてこんなことにね」
?「こうなってしまったら僕らにはどうすることもできない…」
?「…僕らにはどうすることもできないね」
?「とに…く…ぼく…は…カギ…か…確認して…く…」
?「…うん…無事…してみ…う…」
…その小さな声はまるで、蝶の羽音のように優しくハナちゃんの頭の中に直接流れ込んできましたが、最後のあたりの会話は途切れとぎれになり、詳しく聞き取れませんでした。
ハナ「ん〜?んんん〜???」
ハナちゃんは右左、上下、前後をキョロキョロと見回しましたが誰の姿も見えません。
やっぱりここにはハナちゃんしか居ないようです。
と、その時でした。
ピカァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!
グラスランド全体を包み込んだあの光りがハナちゃんの目の前で、爆発したかのような激しい輝きを放ち続けました!
ハナ「わぁぁぁ!!まぶしいぃぃぃ……!!!!」
とても目を開けることのできないほどの煌めきの量に、ハナちゃんは大きな石橋の真ん中で座りこんだままくらくらしています!
ハナ「ちょ…もう…」
永く永く放ちつづける光りの明るさに、とうとうハナちゃんは気を失っていくかのように意識がボヤけていきました。
黒い夜空を包んだ眩い光。
寝ているハナちゃんが見た夢の中の景色と同じような光。
この奇妙でへんな出来事がこれから起こる大冒険のはじまりになるということに、ハナちゃんはまだ知る由もありません。
第2話につづく…
−第2話−
?「ハナちゃーん」
?「ハナちゃんそろそろ起きなさ〜い」
やや丸みをおびた木製のドアの向こうから、朝ご飯をつくりながら呼びかけるお母さんの声が響いてきました。
とても穏やかで優しそうな気品の感じられる声色ですね。
ハナ「ふわぁ~い。。」
目をゴシゴシとこすりながらベッドから起き上がり、ヨタヨタと自分の部屋から出てすぐの壁に沿って作られている螺旋状の階段をの手すりにもたれてフラフラと降りていきました。
階段を降りた先のリビングの中央にあるリビングテーブルは木製で、少しカタチのゆがんだ円形でできており、手作りで作ったような木と木を繋ぎ合わせた背もたれの付いたイスが3っつ添えてあります。
ハナちゃんの自宅はこの可愛らしいリビングテーブルのある部屋を中心に、ぐるりと360度にわたって、玄関、ダイニングキッチン、トイレ、お風呂が配置されていて、ハナちゃんが自分の部屋から降りてきた螺旋階段から2階にあがることができます。
家の内装にとっても似合う螺旋階段には木製の手すりがついており、とってもぶ厚くて大きな葉っぱで出来た歩き心地がモニモ二とする不思議な階段になってるんですよね。
二階にはいつも寝坊するハナちゃんの部屋、お父さんとお母さんの共同の寝室、荷物や洋服などがまとめられている小部屋があります。
決して大きくはないお家ですが、自然的で丸くてかわいい作りの開放的なデザインでできている自分の家をハナちゃんはとっても気に入っているそうですよ。
足の裏に「モニッ、モ二ッ」と感じる不思議な葉っぱの階段を降りたハナちゃんが向かったキッチンでは、ハナちゃんのママが優雅にテキパキと朝ごはんの支度していました。
ハナ「お母さん、おはよ~…」
ハナママ「はい、おはよ~ハナちゃん」
ハナママ「もうすぐで朝ごはん出来るから、お顔洗ってきたら?」
ニコッと微笑みかけながら寝ぼけたハナちゃんを洗面台に誘導するハナママは、天真爛漫で笑顔いっぱいの元気っ娘のハナちゃんとは対照的で、穏やかで優しくて凛とした上品なたたずまいをしており、「あなたの考えていることはお見通しよ?」と嫌味なく言えそうな雰囲気を身に纏っています。
ハナ「は~い…」
ハナちゃんはトコトコと洗面台の方へいき、洗面台の鏡の前でもう一度おっきなアクビをして顔をジャブジャブ!っと洗いました。
ハナ「ぷぅ~~!!」
いま目が覚めましたよと言わんばかりの声をだしながら鏡のある洗面台の左手にある、顔よりやや大きいくらいの小さな窓から外に目をやったハナちゃんは昨夜の夢を少しだけ思いだしていました。
ハナ「…不思議だったけど楽しそうな夢だったなぁ…」
ハナ「グラスランドみたいな島みたいなのもあったけど…本物だったりして…」
ひとりごとを言いながら昨晩の夢を思いだしながらニヤニヤして眺める小窓の外は家の裏側になっており、朝日の輝く大きな青空と青空に手を振る花と野草がいっぱい溢れていました。
ギシッ、っとごくごく僅かなきしむ音をたててリビングテーブルに備えついているイスに背もたれて座るハナちゃんに、
ハナママ「はい、ど〜ぞ」
と、タイミングよく朝食をだしてきたハナママ。
ハナ「わぉ!美味しそ〜う!」
と、やりとりをしながらテーブルに差し出された朝食は、温かい"ハチミツミルク"の注がれた木製のマグカップ、葉っぱのお皿に花の蜜がたっぷりかかった"ナン"によく似たこんがり焼けたトーストが小さなお盆の上に乗っており、どちらもハナちゃんの大好物なわけです。
ハナ「いっただきま〜す!」
モシャ、モギュモギュ。ズズ…、ゴキュゴキュ。
ハナ「今日の花蜜…おいひぃ♪」
美味しそうに朝ごはんを食べるハナちゃんの様子を背中に感じているハナママも、自分のマグカップに少し苦味のある"ハチミツコーヒー"を注ぎハナの右横のイスに腰掛けるとハナちゃんに喋りかけました。
ハナママ「ねぇハナ、昨夜すごいことあったのよ?」
ハナ「ふぇ…すごいことって?」
サクッ、モゴモゴッ。
トーストを食べながら器用に返事を返します。
ハナママ「ハナはもちろんぐっすり寝てたから気づかなかったみたいね」
ハナちゃんを茶化しながらフフッっと小さく微笑むハナママの姿はまるで、ドラマ撮影シーンの一コマに出てくるベテラン女優のような雰囲気です。
ハナママ「昨夜ね、生命の滝が急に流れなくなって止まってしまったのよ」
ハナ「…はぇ…?」
ズズ、ゴクンッ。
甘くて少しとろっとしたのど越しのハチミツミルクを飲みこむ音が、やけに大きく感じます。
ハナママ「夜中にすっごく明るい光りが音もなく輝いたの、空一面に。」
ハナママ「家の中もものすごく明るく照らされたのよ。お母さんビックリして思わず外に飛び出したのよ、そしたら…」
ハナママの話をポカンとした表情で聞くハナちゃんの持つマグカップが傾いており、今にもハチミツミルクが零れ落ちそうです。
ハナママ「まるでお昼みたいに明るい空になって、夜中の3時すぎなのにね、頭がこんがらがっちゃったわ」
「ご近所さんも外に出てきていてお母さんと一緒に空を見ていたの」
「"開いた口が塞がらない"ってこういうときに使うのね」
なにかとてつもなくすごい現象を目の当たりにしたわりに冷静に語るハナママにも凄みを感じますが、そんなハナママの話を聞くハナちゃんの瞳のワクワク、キラキラには敵いませんでした。
ハナ「ちょ、なんか分かんないけど、グラスランドに流れてる生命の滝の水が止まってる!?流れてないってこと!?」
そう言い切る前にイスからピョンッ!と降りたハナちゃんはハナママの座るイスとは逆側から向かいにある玄関に走っていき、ガチャッと木と土を混ぜ合わせて出来た少し重めの玄関ドアを開け外に飛び出していきました。
朝の8時を過ぎた庭先は、すでに日の光をタップリ浴びた野草と野花たちがキラキラと煌めき、穏やかな風に身を任せサラサラと揺れ踊っているかのようです。
外では近所に住む村人たちも数人、その光景を見つめています。
腕を組んでジーッと見ている人もいるし、3人でガヤガヤと話をしている人もいたり。
そしてハナちゃんもまた、村人達と同じ方向に体と顔を向け、遠く別の世界のような風景を見つめています。息をするのを忘れてしまうほどに。
ハナ「うっわぁ…見える…ほんとだ…ほんとに流れてない…!」
ハナちゃんの暮らすどんぐり村は多くの草の娘たちが共存するとてもとても広大なグラスランドから、数十キロ離れた離島になっています。
ハナママの言っていた『生命の滝』は目を凝らして見上げてもてっぺんが見えないほど天高い空の上から、グラスランドの中心に向かって止まることなく降り注ぎ続けるそれはそれは巨大な滝のようです。
ハナ「どうして…こんなことって初めてみた…??」
ハナちゃんが少し見上げて見ている巨大な滝のその大きさは滝の端から端まで歩いても1日ではたどり着けないほどで、滝が何処から何のためにいつからグラスランドに流れ落ちているのかは長い歴史のなかでも不明なようですね。
明らかになっているのはその生命の滝から流れる水が、グラスランド全体の大地を潤しそこに暮らす草の娘や生き物の生活に欠かせない貴重な資源だということ。
まるで命を注ぎ込むように止むことなく大地に水を降らせる生命の滝は別名『フェアリードロップ(妖精の雫)』と讃えられ、大昔から大切に大切にされていた。そのフェアリードロップと呼ばれる"生命の滝"が止まっているのです。
ハナ「…滝の水が降ってないなんて…」
外に出ていったハナちゃんをゆっくり追いかけてきたハナママは、滝の水が降っていない空の遥か上を眺めるハナの姿を眺めました。
このときのハナちゃんの瞳を見ていたハナママは、ハナちゃんの今の心境に驚きや不安だけではなく、ワクワクドキドキしていて好奇心と探究心が芽生えはじめているのだろうと瞬間的に感じ取っていたと、後に語っています。
「ふぅ…そうよね」とも言いたげな表情をしてハナママは腰に手を当てて、ハナちゃんの見ている海を隔てて遠くに見えるグラスランドに目を向けました。
空には雲ひとつない快晴と今日という変わらない一日の始まりを知らせてくれるように数匹の小鳥たちが歌を歌いながら、ハナちゃんの視線を横切って飛んでいきました。
そして2日後、
ハナちゃんはどんぐり村から旅立ちました。
第3話につづく…
−第3話−
ー旅立つ2日前の朝ー
ハナの通うあんず学園はどんぐり村に一つだけある小さな学校で、敷地には木造一階建ての校舎がひとつだけあります。
走れば二十秒ほどで端から端まで着いてしまう校庭にはいつも、草花たちが肩を組んでいるかのように活き活きと咲いています。
?「みた!みた!」
?「あの光り見てから目が冴えちゃってずっと起きてたもん」
ふたりの少女は朝の登校中ですが足を止めて、沿道に咲いているクローバーの群草から手分けして四つ葉のクローバーを探してるようですね。
?「えー?オギちゃん寝てないの!?」
オギ「うん。なんだかドキドキしちゃって。ミスちゃんは?」
ミス「私はお母さんに起こされて、窓から空の光りを見たよ!…5分くらい光ってたじゃない!?そのあと光りが無くなってからも10分くらい元の夜空を見てたんだよね〜」
オギ「…フフ。私と同じだね。私はそのあとなんとなく寝れなくなったから一人で起きてて、ちょっと外にも出てみたり、また光るかもしれないと思って夜空を何度も見上げたりしてて」
ミス「そっか〜、私は睡魔に負けてすぐ寝ちゃったよ〜!」
ミスちゃんはかわいい頬を赤らめながらニコニコと笑って話します。
二人はどうやら仲良しのようで、通学途中ではいつも道草をくっています。
もちろん遅刻はしないように早いうちに家をでてるみたいですね。
オギ「そろそろ行く…?」
ややいい加減に手探りをしてクローバーを漁っていたオギちゃんは、手元のクローバーを撫でるような仕草をしたのをキッカケに、学校に行こうという合図をだしました。
ミス「んん〜…ない!ざんねん!また明日…♪」
明るい口調でミスちゃんは言うと膝をついたままスカートの前側をパッパッパッと両手で払い、跳ぶように立ち上がり小走りで歩道へ戻りました。
オギちゃんもまたスッと立ち上がり、ほぼ汚れていないスカートをパッパッパッと片手で払い、先に歩きだしたミスちゃんをスタスタとゆっくり追いかけました。
オギを擬人化したオギちゃんとオギススキを擬人化したミスちゃんが住むあたりからあんず学園までは障害のない平坦な道のりで、家から徒歩20分ほどの距離ですから、さほど苦労する通学路ではなさそうですよ。
そして、
…ブゥゥーーーーーン!!!
姉妹のようにかわいい草の娘コンビがあんず学園の校門をくぐって10分ほど経った頃、何者かの虫の羽音が校門にブンブン近づいてきます。
ブゥゥーーーーーーン!!!
ハナ「ヤバい、ヤバい、ヤバいーー!!!」
?「ハナさん、急ぎなさ〜〜い」
ハナ「シロバナせんせ〜〜い!!」
シロバナ先生「ギリギリ間に合うわよっ」
ビューーン!!、ドテッ〜! ゴロゴロゴロッ…!!
校門をくぐったと同時に野草いっぱいの校庭に転がりこんだハナちゃんを横目に口元に細くて白い手を当ててクスリと笑うシロバナ先生は、あんず学園で教師として働いている草の娘の一人です。
上品な容姿と可愛らしい振る舞いに合わせて、愛らしいその表情は擬人化の元であるシロバナツユクサの花言葉のように「セレナーデ(小夜曲)」を奏でるように愛情を持ち、あんず学園の生徒たちにも大人気の先生です。
ハナ「間に合った〜〜あぁ…!!!」
シロバナ先生「ギリギリセーフね、ハナさん。さっそくだけど教室に行きましょうか?」
シロバナ先生は愛らしい笑顔を見せながら疲れてへばっているハナを綺麗な声で立ち上がらせると、教室のある校舎の玄関に入っていきました。
?「………」
ん?
「ちょ、ちょっと待ってぇ〜」と言わんばかりにしかたなくズルズルと慌ただしく校舎に入っていくハナちゃんを、校舎の二階から頬杖をついた草の娘がジッと見下ろしていますね…。
朝のホームルームに向かうシロバナ先生のあとを追うように教室に一緒に入ったハナは、クラスメイトの草の娘ちゃん達に
「おはよー、お寝坊ハナ!」
と冷やかされながら自分の机にヨッと座りました。
?「ハナ、また寝坊した??」
ハナ「ちがう、ちがう!寝坊じゃないよ〜!」
一つ前の席に座るオオカマキリの擬人化したキーちゃんは、ハナがいつも寝坊しているかのような言いぐさで茶化しています。
どうやら遅刻の常習犯のようですね。
キー「ほんとに〜!?」
ハナ「ホント、ホント!」
ハナ「ところでさキーちゃん、昨夜の夜空の光り見た…!?」
キーちゃんの茶化しを避けるように、今朝お母さんから聞いた夜中の光りの話しをしようとしたら、
シロバナ先生「はいはい、ハナさんキーさん。ホームルームするからね、お話はその後にしましょ」
自分の生徒たちを"さん"呼びするエレガントなシロバナ先生が優しい口調で話し始めました。
シロバナ先生「みなさん、おはようございます」
「「おはようございます!!」」
と声をそろえて朝の挨拶する生徒たちは全員で9名おり、学園にはこの1クラスしかありません。
小さな田舎の小学校のような雰囲気ですね。
さきほど遅刻ギリギリで登校してきたハナをジッと見下ろして見ていた草の娘は、小さい教室の校庭がわの窓際の席に座って、今度は片手で頬杖をついたまま、窓の外の空を見つめています。
シロバナ先生「はい、みなさん今朝も元気いっぱいですね。今日はすこし大切なお話しをしなくてはいけなかったので、お休みの生徒もいなくてなによりです。さっそくですが昨夜の光りの現象を見ましたか?」
キー「みた!みたーー!」
キーちゃんがかわいいカマ(手)を上げると同時に待ってましたと言わんばかりに反応して、オギちゃん、ミスちゃん、ハナを含めたクラスのみんなはガヤガヤと話しだしました。
ハナ「ハナは寝まくってた〜〜!!」ニコニコと屈託のないかわいい笑顔で手を上げてそう言うと、「マジで〜!さすがハナちゃんだ!」とクラスメイトに笑われながら、またも茶化されてます。
どうやらハナちゃんはその持ち前の天真爛漫なキャラで、クラスの中心的なムードメーカーのようですね。
シロバナ先生はそんなハナを見てクスッとしながら、クラスみんなの表情や態度を見渡してなんとなく安堵のため息をつき、
シロバナ先生「そっか、みなさん知ってるのね。それならちょっと説明させてね。」
シロバナ先生はそういうと昨夜の光り事件のことをあらためて説明しはじめましたがその内容は、ハナもお母さんから聞いてないことが含まれていましたから驚きです。
【とつぜん夜空を照らした光は約5分ほど続いたのちに、過去に一度も止まなかったフェアリードロップ(せいめいの滝)の流れがピタッと止まってしまったこと】
【そのせいで、滝から零れる水の供給が止まることでグラスランドの生活バランスが狂って困るかもしれないということ】
【そんなグラスランドの住人と連絡を取り合った結果、どんぐり村の大人たちがグラスランドに調査に向かうと同時に、明後日の朝に手助けも兼ねて出航するということ】
【その船に、どんぐり村でしか取れない木の実や花蜜などの食料を積む作業に人手が足りないとのことで、学園の先生達もこれから手伝いにいくこと】
【そして今日の授業はこのホームルームで終わり、先生たちはすぐに職員会議が行われ、明日の登校は緊急休校になるということ】
ハナ「グラスランド…」
キー「そんなヤバい感じ…?」
ミス「ひゃぁ…」
?「………」
最初はおもしろおかしく笑っていたクラスのみんなも少しづつですが、ことの重大さを感じはじめ真剣な表情になってシロバナ先生の話に耳を傾けていました。
シロバナ先生「ということです。詳しいことは先生もまた、これからする職員会議で情報交換をする予定です。みなさんはこのホームルームを終えたら、まっすぐお家に帰ってもらうことになりますので」
それならはじめから連絡してくれればいいのに…。
と、思うかもしれませんがこの小さな離島のどんぐり村で連絡を取り合う手段は"お手紙"のみで、電話やメールやスマホなどはもちろんありせん(学校には一つだけ電話が置いてあるので、グラスランドとはそれで連絡しあったのでしょう)。
オギ「シロバナ先生も…船に乗るの?」
ミスちゃんと仲良しのオギちゃんは大声をだすタイプではないので、小さく静かな口調でシロバナ先生に確認します。
事の重大さを感じはじめたクラスに、その小さな声はしっかり聞き取れるほど響きました。
シロバナ先生「先生は学校に残って学校のお仕事をする予定です。何人かの他の先生たちは船に向かうと思われます、手分けする感じですね」
優しい視線をオギちゃんに向けたまま、手もとの資料を”トンットンッ”っとしながら質問に答えるシロバナ先生は、あらためて終わりのあいさつをしていました。
遅刻ギリギリで登校したにも関わらず朝のホームルームのみで下校になったことにハナは、嬉しさと切なさを同時にかかえてなんとも複雑な気分で眉をしかめながら、みんなと一緒にトボトボと校門を出たところであの夢を思い出しました。
ハナ「…あっ…」
キー「どした、ハナ~?」
ハナの前を歩くキーちゃんが振り向きます。
ハナ「あのさ、今朝ね、変な夢を見たんだぁ~」
オギ「夢?」
ミス「どんなの?どんなの?」
ハナと横並びにいるミスちゃんの一歩前を歩くキーちゃんとオギちゃんが、クルッとハナの方に体を振り返らせ後ろ歩きをしながら話を聞きました。
ハナ「なんかね…」
今朝の夢に出てきたことをお母さんに話した時と同じように語りだしたハナちゃんの瞳がまた、キラキラとしてますね。
そして、その下校中の和気あいあいとしている三人を、道脇の大きな樹に生える太い並行枝の上から、見下ろす人物の視線が…。
第4話につづく…
🌱1話~3話に登場した草の娘ちゃんの紹介
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