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黒い果実(3)

スーツをオーダーメイドしたタカシ。
出来上がったスーツ。
とんがった靴。

オーダーメイドスーツが出来上がるまで、
就職情報誌を沢山買い、履歴書も沢山書いた。
相変わらず家にいるが、朝ごはんの食器はそのままだし
テーブルの上にはお菓子のくず。
私が買って二人で食べようとおもっていたのに。
布団もずっと敷きっぱなしだった。
恐らく実家で何もしてこなかったのだろう。
この時きっちり教え込んでいたら何か違っただろうか?
しかし恋と慣れは怖いもので、タカシを「そういう生き物」として捉えている自分がいた。
さすがに我慢できない部分は少しづつ指摘して直していった。

一年が過ぎタカシのバイトも決まり、
アパートの契約の更新時期がきたので引っ越しを考えていた私は閃いてしまった。
私がマユちゃんと部屋を借りて、タカシがマユちゃんの彼と部屋を借りる。
そうすれば世間体的には友達とのルームシェア。
そして相方チェンジ!
事実上の同棲ができるわけだ。
マユちゃんたちも二人でワンルームは狭く感じていたらしく、即提案に乗ってくれた。

四人での部屋探しはわりとすんなり決まった。
もともと私の部屋にタカシが、マユ彼の部屋にマユちゃんが転がり込んでた状態だったので
同じ方式をとることにした。
親が来た時のことを考えて、自転車でも行き来できるくらいの場所に部屋を借りた。
そうすれば四人のうち誰かの親が来た時は正規のルームメイトに家に居てもらえる。
我ながら良い作戦だ。

しかしそんな状況は一度も訪れることなく二年が経とうとしていた。

マンションの更新時期が近づいてきたある日、
マユちゃんカップルに別れたと告げられた。
マユちゃんの彼はそのまま一人で更新すると言っていた。

そうなるとこちらはどうしよう?と話し合い
結婚するからお金を貯めるために同棲する、と親に話し
堂々と同棲するという案に決まった。
決まった、といってもまだどうなるかわからないので
まずは一緒に住んでみて、合わなければそれまでだし
本当に結婚となったらちゃんと両家に挨拶する。
と雑なのか丁寧なのかわからないプレゼンを両家にして了解をもらった。
約束は二つ。
「きちんと結婚するまで子供は作らない」
「結婚が決まったら結納をする」
両家の親からの絶対条件だった。

うちの親はタカシが正社員にならなければ結婚は許さないと言っており
当時派遣社員だったタカシはまた職探しを始めた。
なんとか正社員になり、職場の近くで新生活をスタートすることになるのだが…
引っ越しを決める少し前に新しい職場の女の子からよくメールが来るようになった。
他愛もない「おやすみ❤️」とか「明日もお仕事がんばろー\(^o^)/」みたいな。
タカシもそれほど気にしていないのか、携帯の画面をみせてきた。
知らない女からのおやすみコールは正直良い気持ちはしないけど
見せるくらいだから後ろめたいことはないだろう。くらいに思っていた。
なにせ婚約したのだ。どーんと構えていればいいさ。と。

そんなある日、深夜にタカシの携帯が鳴った。
誰だ?こんな真夜中に。
メールの相手のヨネだった。
酔っ払った声と口調で「あれ?タカシさん?なんで?
あははー間違ってタカシさんにかけちゃったー♪」
私知ってる。この手口。こういうオンナ。
甘えてメール攻撃、酔って間違ったフリで電話。
オトしにかかってる。
何年も前の黒いモノが胸の中をモゾモゾしはじめた。

(つづく)

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