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黒い果実(2)

私がなぜこんな風になったのか?
それはタカシと付き合う1年ほど前に遡る。

田舎から上京した私は職探しを始めた。少しでも芝居にプラスになることをしたかったので、
当時普及し始めた携帯電話のお客様センターでテレフォンオペレーターをすることにした。
そこで知り合った一期下のミュージシャン志望の年上男性が
実は同郷で、しかも知り合いの中学の同級生だったことも判明し意気投合。
しかし二股の股の方だったということがわかり
人間不信になって職場を辞めた。
ざっくりと説明するとこんな感じだ。
本当はもっと色々あったがどうでもいいので割愛。

友達としてよく電話してたタカシに愚痴をぶちまけていた。

「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」と言いたいところだが
正直二度と恋なんてしたくないとさえ思った。
他にもその時期色々あって男性不信を通り越して人間不信になっていた。

そこから一年芝居の事だけを考えてガムシャラにあれこれやった。
「お前なんか芸の肥やしにしてやる」と書いた手紙を投げつけた手前
本当に肥やしにして肥溜め行きにしてやろうと息巻いてた。

小劇団掛け持ち+同期とも何かやろうと書いたこともない脚本を書いたり、
仕事もバイトも掛け持ちして忙しすぎて蕁麻疹が出たりもした。

タカシの前に好きだったといった人も、恋愛というよりも尊敬とか憧れだったと思う。
講師には「たくさん恋しなさい」と言われたけど、もう恋愛なんていらないや。
そう思っていたのにタカシからの告白。

最初は恋愛感情なんてなかったけど、同期の中では一番仲が良かったし
前述のミュージシャン崩れの一件も知ってくれてるし
周りからも「タカちゃんいいじゃん!付き合ってみなよ」と言われお付き合いに至った。

付き合ってみると、気はきくしフットワークは軽いし優しい。
私を第一に考えてくれているのか嬉しくてどんどん好きになった。

しかし一つだけ引っかかることがあった。
うちに転がり込んできて以来、養成所は退し
バイトをしている様子がなかった。
ただただ家にいる。
私が仕事から帰ってご飯を作ってお風呂を沸かして茶碗を洗って…
その間、ずっとゲームをしている。
昼間寝ているせいか夜眠れずに、眠る私の横でまたゲーム。
食費光熱費家賃は全部私が出していた。
「働いたら?」と言いたかったが、関係が壊れるのが怖くて言えなかった若い頃の私。
これでは完全にヒモじゃないか。
そう思って伝えようとした矢先のマユちゃんメール事件。

これを機に付き合いを見直そう。
タカシがマユちゃんのことを忘れられていないこと
タカシの昼夜逆転生活のこと
これからのこと。
思った事を全部言った。
「少し考えさせて」と後ろを向いて寝てしまった。

もうダメなのかな。
このままじゃ私何で上京したのかわからなくなっちゃう。
タカシがうちに来て以来、一人の時間が皆無になってしまったことのストレスと
芝居のことを考えられなくなっていることの焦りが強くなっていた。

数日後「別れたくない。ちゃんと働く。マユちゃんのことは完全に吹っ切る。」
とタカシ母から送られてきたお金を手に、スーツをオーダーメイドしにいった…。
…ズレてる。
オーダーメイドってアナタ…。

振り返ってみると…当時の私、目を覚ませ!!と言いたい。
恋は盲目というのは本当らしい。

(つづく)

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