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なぜ「着物屋さんは怖い」のか|呉服屋裏話vo.1

こんにちは。
元呉服屋副店長・りんです。

呉服屋さんに入ったことがある方、または無い方でもなんとなく「着物屋さんって怖い」というイメージありますよね。

私は新入社員として呉服屋に入る前は、一度も呉服屋に入店したこともなければ着物に対してのイメージもまるで無かったんですね。

でも入社してお客様に言われるわけです。
「着物屋さんは怖い、敷居も高いし。」と。

ぴちぴちの新人だった私としてみれば、
「敷居が高いのは分かるけど、怖いってなに!?」って感じです。笑

のちに知るこの理由は、十数年前に破産した某大手呉服店グループの「ヤ○ザ的売り方」にありました。


放っておいても売れた着物バブル期

今から30〜40年前のバブル期。
この時代は着物の売上も業界史上最高額の1兆8千億だったとされています。
2021〜2022年では631億ですから、現在の30倍近くの売上があったんですね。

まさに着物バブル期。

当時の様子を知る上司はたびたび「あの時代は良かった」と青春を思い出すかのような目をして呟いていました。
数百万の着物が放っておいても売れていったというんだから、そりゃあもう呉服店員としては夢のような話です。

ちなみに、現在着物の中古市場に出回っているほとんどがこの時代の着物だと言われています。


「着物は贅沢品」となったバブル崩壊後

時代は昭和から平成に変わり、1991年にバブルが崩壊。
ここから一気に「不景気の日本」になりました。

それと同時に「着物は贅沢品」となり、着物を買う人は減っていきます。
まあ、当たり前ですよね。
高価なうえに、洋服が当たり前となっている現代人にとっては着物は必要ないですから。

私が産まれたのはこの時代で、物心つくころにはすでに「不景気」の世が当たり前。
母が語るバブル時代の話を羨ましく感じていました。


売るために暴走した呉服業界

一世風靡したバブル期を過ぎ、みるみる落ちていく呉服業界の売上。
これを恐れた某大手呉服販売会社は、「売るため」に強行手段に出ます。

お客様を販売会場に連れ込み、買うまで大人数で囲って帰さない。
着物を売りつける目的で従業員を雇い、パワハラのような形で着物を買わせる…。
しかも、そのためのガッチガチのマニュアルが社内で作られその上で実行されていた、と。

当時を知る人から聞いた時、思わず「ヤ○ザじゃないですか!」とドン引きしてしまいました。笑
こんな売り方を毎回しているようでは、訴えられて倒産も当たり前ですよね。

この会社が超大手だっただけに被害者は多く、着物屋さん=悪徳商法 というマイナスイメージに貢献してしまったようです。


今なお続く囲み売りイベント

前述したヤ○ザのような商法(ここでは囲み売りと呼ぶことにします)ですが、この話を聞いた当時私はドン引きしたと同時に別の意味で怖くなったんです。

「私たちがいつもやっている売り方って、この囲み売りと何が違うんだろう…?」

と思いました。

私の会社では様々なマニュアルがあり、そのひとつに「1名のお客様に対し3人以上での接客はNG」というものがありました。

大人数で圧をかけて商品を買わせるという行為を防ぐためのルールですが、1名のお客様に対し2〜3名のスタッフが付くことは当たり前でした。
大人数でなくとも、友達でもない数人にべったりくっつかれて接客され買うように促される行為は「圧を感じない」とは言えないな…と、現役の呉服店員だった私でさえ感じたんですね。

まだ過去に問題になった売り方を捨てられていないんだろうな、と思ったのを覚えています。
そんな雰囲気の販売で、呉服屋に対する「怖い」イメージは変わらないですよね。

ここだけの話、倒産した某大手グループに在籍していた社員が何名も私の会社に転職組として在籍していました。
そして私が入社したとき既に社内でも上位のポストについていました。
つまり某大手のノウハウが反映されていないワケがないんです。

もちろん、昔のような無謀マニュアルが制定されているわけではありません。
前述したように1対大人数の接客はNGですし、従業員に着物を押し売りするのもNGです。
某大手の倒産騒動後から業界他社では急ぎマニュアルや規定の改定が行われた、ということなんでしょう。

これからの呉服店

なんだか偉そうに書いてきましたが、かくいう私も同じ穴の狢で同じような接客をしてきました。
「しつこいな」「押し売りじゃない?」と感じたお客様も少なからずいたと思います。

入社した当初、売り方に疑問が出て「詐欺みたいな商売ですね💢」と上司に噛みついたこともありました。
でも朱に交われば赤。
数年もすれば店長の右腕である副店長になっていました。

ただこれからの呉服業界、今のままでは衰退する一方だと思うんです。
ただでさえ日本人のほとんどが着物を着られない、必要としていないから。
消費者の生活や価値観に大きな変化が起きているのに、呉服業界は数十年前からほぼ何も変わっていないんですよね。

日本の伝統衣装である着物と呉服業界を絶滅させないためにも、そろそろ変化が欲しいところです。


今までの呉服店の売り方やこれからについては今後コツコツと書いていきたいと思いますので、またお会いできたら嬉しいです。
またよろしくお願いいたします。

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