ダメンズ製造機女

僕は酒も飲むし、煙草も吸う。
この時代に煙草も吸うのだから人生の負け組である。
そして妻は非喫煙者であるが、僕に煙草は吸えと勧める。
理由を聞くと「禁煙して一日中イライラされるくらいなら吸ってもらったほうが良い」とのことである。「禁煙は絶対にするな」と言う。
だから僕は煙草を毎日吸う。
「酒も控えようかなぁ」と思うこともある。
「明日から酒を控えてみるわ」と妻に宣言する。しかし、次の日冷蔵庫を開けると、酒が冷やされて夕ご飯の時には食卓に並べられる。「禁酒しようと思っていたのになぜ」と質問をすると「酒まで止めてストレスが溜まるくらいなら飲んでもらったほうが良い」と言う。そう。僕の妻は「ダメンズ製造機」である。
僕の前の元彼はヒドイ男だったそうだ。
働きもせず実家に寄生していた。
僕の妻を週4で実家に止まらせていた。
妻の財布から金を盗んでいた。
携帯を持っていなかった。
こんな元彼だったそうだ。
幸い僕は金は盗まないでも生きていけるだけの最低限の賃金は、自分でなんとかなるので、妻の財布から失敬することはない。

妻は後妻である。
後妻として我が家に暮らす前から我が家では、猫を飼っている。
公園で拾った猫だ。誕生日は知らないが、我が家に暮らして14年は少なくても経っている。14年間、我が家の猫の食事は所謂「カリカリ」のみであった。
しかし現妻は来訪し、間もなくすると「チュール」の味を猫に覚えさせた。
我が家の猫はチュール中毒となった。
御歳約14歳である我が家の猫。生涯を考えたら「チュール」くらい食べさせてあげたいと、やはり考えてしまう。そう考えると、塩分が多いから体に悪いだろうと分かってはいるが、焼き魚も少し上げちゃいたくなる。
そう。うちの妻は生粋のダメンズ製造機なのだ。
昨今「男女平等社会」と喚き散らす日本がポピュラーになりつつある。
ダメンズ製造機は、元々実家で大黒柱をしていた。父上、母上、そしてダメンズ製造機に育てられたスグに病気になる虚弱犬と暮らしていた。ありとあらゆる行政の恩恵に目を光らせ、受けれる保護は全て受けつつ、個人事業主として、税金を全然払わないでやりくりしていた強者である。
そう。社会に出ても何ら強がらず、敗者のような眼差しを役所の職員に向けてお互い気持ちの良い状態で保護を受けているのだ。
現在は、専業主婦だ。
1歳の息子がいて、世の母上と同じようにイラついている。だが、僕に家事を手伝えとか、育児を手伝えとか言わない。洗濯物も100%ダメンズ製造機が行っている。
そこまでされると申し訳ないので、仕事から帰ったらなるべく子と遊んだり、なにかを教えたり、風呂に一緒に入ってあげたりした。
料理はできるのでたまに僕が作り、クセで使い終わったフライパンや菜箸をスグに洗う。食料を乗せる皿は、妻が洗っていた。
ダメンズ製造機の中でその程度の動きを感謝し、家事をやってくれる旦那として僕を扱うのだ。さすがダメンズ製造機である。

ダメンズ製造機の妻に聞いてみた。世の中「家事をやれ」「育児をやれ」と騒ぎ立てる女性が今は普通なのでは……と。
ダメンズ製造機曰く一言で言えば「うるさい」とのことであった。
かつて無一文になった父上と脳梗塞でぶっ倒れた母上を抱え、合間に虚弱犬を飼い大黒柱として生きてきたダメンズ製造機。「働いていないのだから家の事は全部私がやるのが当たり前である」と言う。完全に「男尊女卑」の思考回路である。因みに妻の父上も母上も絶対妻には、なにかを注意したりしない。
僕は直接聞いていないが、連れ去り別居をした妻に対して何十年ぶりかで妻の父上が妻に対し怒ったそうだ。簡単に言うと「身勝手すぎる」と。

ダメンズ製造機妻は、月に1回3日~4日程度実家に帰る。ダメンズ製造工場にも月4日の休業メンテナンス日が必要なのだ。
メンテナンスが終わると帰ってきて、また日々ダメンズを製造するため、日夜毎日家事や育児をこなすのだ。
元妻がいた時代では考えられないくらい、ピカピカな部屋。
毎日整えられる寝室。
要らない物は徹底してジモティーで売りまくる姿勢。お陰で物に溢れていた生活が、今は「ミニマリストってこういう気持ちか」と理解出来る程になっている。
そして元妻がいた時に比べ3分の1になった公共料金。
ここまで徹底されると、こちらも動かないと悪い気にさせられるから不思議である。
ダメンズ製造機は、別名メンヘラと言われる。寝ている時に中年になった今でも僕の手を握ったり、腕を甘噛みしたりして寝る。
イビキがオッサンのような所が今の所、唯一の欠点である。


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