近未来のマインドコントロールの恐怖-思考はダダ漏れ、思考行動は操作可能に

---われわれが考えている事が、他人に筒抜けだったら。
---自分の考えと思っている事が、実は、他人に操作されているとしたら。
---自分の行動も、外部から操作可能だったら。

こんな想像は、もはや荒唐無稽な絵空事ではなくなってきている。

『闇の脳科学 「完全な人間」をつくる』を読み、衝撃を受けた。
あまりの衝撃に、医学論文を幾つか検索し、また、関連書籍として 『ブレインテックの衝撃』を読んだ。

脳深部刺激装置 (Deep brain stimulation: DBS) は、脳に電気刺激を与えることにより、疾患の治療を試みるものである。
DBSの歴史は、1940-50年代までさかのぼり、現在では、パーキンソン病で最も実績がある(日本においても保険診療適応)。

人間の感情や行動は電気刺激でコントロール可能であることを示す、衝撃的な事例がいくつもあるので、簡単に。

A. エルンスト・フェール (チューリヒ大学)の実験。
電気刺激で、道徳的な行動を増やした。 しかも、被検者達は、自発的な行動しか認識せず、実際の行動変化に気づいていない。 → 本人に気づかれずに、思考操作が可能である!

B. 症例A-10(ジョー)
 不快な記憶想起で振幅の出た海馬を刺激すると、突然の激怒・殺意を示す。後から、なぜそういった感情が起こったか、本人も説明できず。

C. 怒り発作の男性
 治療装置が埋め込まれ、脳刺激で怒り発作が抑制された。また、明るくおしゃべり好きに。
怒り発作の再発があったが、装置の断線が原因と判明。
治療効果を裏付ける、対照実験となった。

D. 薬物注入による性格変化・オーガズム誘導 (症例B-5: 34歳女性)
 てんかん治療のため、脳に薬物注入 (Achを中隔野に注入)することで、難治てんかんがコントロール可能になった。
 一方、薬物注入に伴い、高揚感を感じ、外交的になり、15分後 繰り返しオーガズムに。それまで3回の結婚生活で一度もオーガズムを経験したことがなかったが、治療以降、常に達するようになった。

刺激装置は進化している。
現在、閉回路 (Closed-loop) と呼ばれる、自己自立型の刺激装置が開発されている。これは、脳の電極により脳の状態をモニターし、望ましくない脳の状態が起こった(あるいは起こりそうな)場合に、電気刺激で脳の状態をコントロールするものである。
また、現在、装置は小型化され、埋込型になっている。
さらには、データ解析やプログラミングのため、Wireless でデータを送受信可能になっている。

 ここで懸念されているのが、セキュリティー問題である。
 もしあなたがが脳電極を埋め込まれた状態で、それがハッキングされたらどうなるか?
 あなたの行動や思考が、まわりの誰かに筒抜けになるかもしれない。メールの盗み見なんて甘い。ダイレクトに、考えてることが分かってしまうのだ。マインドリーダーも真っ青だ。(注:これはまだ現実にはなっていません。近未来の想像です。)
 あるいは、あなたの思考や行動を他人に誘導されてしまうかもしれない。しかも、それに自分は気づかない。他人に自分を乗っ取られる事になる。映画で殺し屋に殺人を依頼するシーンがあるが、これからは、ハッカーに依頼するシーンが描かれるかもしれない。
 あるいは、あなたが好きな異性と2人で食事をしているとしよう。もしブレインジャックして、あなたの好きな人に性的興奮を誘導できるとしたらどうだろうか?技術的に可能なら、必ず、そういった闇商売が出てくるのではないだろうか。

様々な医学論文に、「Neurosecurity (神経セキュリティー)」、「Brainjacking (脳ジャック、脳の乗っ取り)」という言葉が普通に出てきているのに驚いた。つまりは、脳のセキュリティー問題というのは、すでに現実の問題になっているのだ。

※医学論文でわかりやすい総説:
Technology of deep brain stimulation: current status and future directions.
Joachim K. Krauss et al.
Nat Rev Neurol. 2021 February 01; 17(2): 75–87. doi:10.1038/s41582-020-00426-z.


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