(17)民間ロケット企業

そしてやって来た社会科見学の日。一台のバスは東北にある民間ロケット会社に向かっていた。

一つの学園で二つのロケットを見学しに行く、というのは無理があるので申し込みは隼人が通う大街道学園ではなく、別の工業高校がもともと予定していた見学に紛れる形をとっている。

(他の学園の制服を着るってなんか落ち着かないな)

そんなことを思いながら隼人はバスの中を見渡す。工業高校ということもあって全員男子だ。カグヤと出会ってから隼人は女の子に囲まれっぱなしだったので少し新鮮な気分だ。

「よーし。そろそろ到着だ。全員失礼の無いように」

教師の号令がかかった。

「宇宙に関する博物館や学習施設は各地にある。今までに行ったことがある人も多いだろう。だがああいうものは誰にでも理解出来るようにわかりやすく作られているある種のオブジェだ。本物ではない」

「中学生までならオブジェでいいのかもしれないが、ここに居るのは高校生だ。難しいことを自分の力で噛み砕いて取り込む、そういう積極的な学び方を身に着けてなければならない」

「だからこそ、この民間のロケット射出場を見学しに行くんだ。用意されたものを受け止めるだけではここに来た意味が無い。全員気を引き締めて見学するように」

号令を受けて社内の空気が引き締まる。全員参加ではなく希望者を募って開いた見学ツアーなので意欲のある生徒が集まっている。

施設の駐車場にバスが止まった。隼人はバスを降りると当時に電波発信を開始した。

「どうだ…俺と同じ耐性持ちは居そうか?」

隼人は念話でカグヤに問いかけた。

耐性持ちはカグヤの電波によって操ることが出来ない人間だ。ロケットに関連するスタッフに一人でそのような人物が居ると何かとやりにくくなる。

「今のところ居ない。お前ほどに強固な耐性を持つ人間なならば電波が弾かれる感覚で識別できるから…気づいたら伝える」

「わかった」

そのまま施設へと向かった。ここはいうならば事務所で、ここから離れた場所に工場、そしてロケット射出場がある。

最初はこの施設での講義、次は施設にある展示ブースを見学、最後は射場に行っての実物のロケットを見学という流れだ。

民間でロケット事業を行う意義、これからの宇宙開発の展望などについての講義が終わり、次に施設内の見学となる。

会議室での講義が終わって、展示ブースに移動する感を狙って隼人は動き始めた。

「施設の構造的にトイレと事務所が近いな。トイレに行くんだ」

「わかった」

「よし…この近さなら電波でパソコンをそのまま操れそうだ…データは全ていただくとしよう…名簿やスケジュール表もあるな…。そして更新されればこちらに通知されるようにプログラムを仕込む……」

手持ちのタブレットにそれらのデータが届いた。隼人はそれに目を通した。」

(…沢山の人が関わるものなんだな…ロケット計画って)

名簿を見てそんな感想を抱いた。そしてスケジュール表に目を移すとあることに気づいた。

『今日は関係者を集めた飲み会があるな。これはチャンスじゃないか』

『なに…確かにそれは狙い時だな。このロケット施設に関連する人間は全て操れるようにせんとな』

やるべきことを終えたのち、隼人はトイレから出て見学班と合流した。

「それじゃ出発だ。忘れ物はないようにな」

施設内の展示ブースの見学を終えていよいよメインイベント、本物のロケットの視察となる。

施設からバスで30分移動して打ち上げ場に向かった。

ロケットはまだ組み立て途中で横になった状態だが、フォルムはすでに成していた。

「おお…」
「すごい…」
「これが…」

実物はやはり訴求力が違う。全員の口から感嘆の声が出る。

案内係が実物を前に説明を始める。

「こちらのロケットは7月の打ち上げを予定していて…そこまでの流れとしては…」

全員が説明に集中する中、隼人は少し温度差を感じていた。

(………………)

隼人もロケットに関して知識は得ていて、興味もある。だが他の工業学生が持つ熱意とは方向性が違う。所詮は仮初の興味でしかない。

急に自分はこの場に居るべきではないという気がしてきて居心地が悪くなってきた。

『どうかしたのか隼人』

『い、いや…何でもない…それでこの後は飲み会に潜入するって形でいいんだな』

カグヤの問いかけを受けて隼人は我に返った。仕事だと割り切って頭のモヤモヤを吹き飛ばして思考回路を働かせる。

『そうだな。その為には…帰り道のバスで途中で降りて先に会場の居酒屋で待ち伏せするという形になるか』

『バスの運転手も操れるから…実行は簡単だな…』

隼人は急ピッチでプランを組み立てた。

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