(11)数と力
しばらく時間が経った後、隼人は生徒会室に戻った。
そこには佳奈子が残っていた。衣装も制服に戻っている。
「会議の時はごめん。少し感情的になって…進行を妨害しちゃって」
苦い顔しながら佳奈子は謝罪した。
「それはいいんだ…でも理由が知りたくって」
何かしらのスイッチを押した、そんな感じの怒り方だと隼人は判断した。
「話してもいいけど…誰にも言わないと約束する?」
「ああ。約束する」
本人にとっては話したくないことなのかもしれないが、今更引き返すわけにはいかない。
「…今から25年前に地下鉄でテロを起こした宗教…知っているよね」
「あ、ああ…」
学の無い隼人でも流石に知っている。それだけの大事件だ。
「その宗教が地下鉄でテロを起こす前…ある村に信者をたくさん移住させたの。工場を作って化学兵器を手に入れる為でもあったけど…もう一つ目的があったの」
(……ッ!)
話の流れから隼人にもその目的が何なのか予想出来た。
「信者の数が村民の数を超えれば…村長選挙で教祖を当選させることが出来る…それも教団の狙いだった」
彼女の声には怒りとも悲しみともとれる重さがあった。
「村民はそれを防ぐために役場を閉鎖して転入届を出させなくしたり…裁判とか…色々戦った結果、教団は村から出ていったけど…村は和解する為に大金を支払う羽目になった。勝つには勝ったけど…代償は大きかった」
役場の閉鎖という強硬手段。普通に考えれば村民側がやっていることの方が違法行為だ。だが教団の乗っ取りを防ぐためには仕方ないのではという考えも隼人の中に浮かぶ。
「会議の時にその村のことを思い出したの。私の親戚に関連している人がいるから。それで…文芸部の子が数では決まらない、内容が大切だって言っていたけど…あの村のケースでは実際には数だった。実際に行われているのが教団による村の乗っ取りでも、選挙ならそれが正当化されてしまう」
「それで…結局は数だって…あそこまで主張したのか…」
「そう。アカウントで自演するのもあの宗教と同じやり方に思えたけど…でもそのやり方が目的を達成する上で有効な手段なのも事実だから…複雑な気分になって…」
「ごめん…何と言ったらいいか…」
「いいよ。気ぃ使わなくて。すべてはカグヤ様の目的を達成する為。みんなで頑張ろう」
「それじゃ。また」
そう言って彼女は生徒会室から出ていった。
『カグヤ…彼女はC班に入れよう』
『なに?だが奴は宇宙に関して素人なのだろう。入れてどうする?』
『素人だからだ。天文部のみんなは宇宙に詳しい。一人くらいは素人目線が無いと難しい説明になってしまうと思うんだ』
『…それはあるか。では奴はC班に移籍させよう』
カグヤへの説明は半分は方便だ。真の理由は彼女をB班に入れるのは良くないと思ったからだ。
(…あの宗教と同じやり方か…)
自分で考えた案だが、そう言われると、やはり心に来るものがある。
だが、彼女の言った通り、有効な手段であることは確かだ。
(…今は実行するんだ)
全てはカグヤを宇宙に返すため、そう考えて隼人は迷いを振り切った。
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