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ショートストーリー集 不思議な場所の話が多い
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Take Me Hand

ベッドに入ってから一体どれだけ時間が経っただろう。窓枠に切り取られた月明かりがゆるやかな風に揺れるカーテンと共に揺れた。 夢の中は、いつも今夜と同じような美しい月夜だ。 暑さも寒さもなく、ただ不安がある。 私の洞察はそれが夢だとほとんどの場合見抜いてしまう。 今夜は夢の世界に拒まれているのだろうか、なんてことを考えている。 退屈な夜は耐え難い。 するりとベットをすり抜け、寝静まった家の裏戸から草むらを掻き分けて、私はありもしない川辺へ降りて行く。流れる小川の水面が月明かりを

コンテナハウス

6.may 2010 生活用コンテナ、それが私の所有物の全てだった。 遥か高いところを雲が覆っている白い空がどこまでも続いていた。そこはいつでも冷たい夜風が吹いている。 外を眺めていた窓を閉じる。自分のコンテナの中を見渡した。コンテナの中はほとんどアパートの一室のようなものだった。あらかじめ用意されていたシンプルな家具に、真新しい壁、ガラスの窓、低い天井、コンパクトな空間。与えられたのはそれだけだった。 近くに聳えているビルは、まるでそれが全てのものを裁く権利を有する

融骨病

その病は命の期限付きで、私の命はもうそんなに長くないことは分かっていた。 子供のころ住んでいた田舎の家の最上階から、現実味のないくらい淡く清々しい田畑の青と、遠くの山の影が見えた。その一室だけが現実から切り離されているようにさえ思った。明るい最上階はその明るさの割に涼しく、太陽がほとんど害のない物のように思えた。 昨晩は最後の外出として商店街に行った。林の中に素朴な木造の建物がいくつも建っていて、その一つ一つが飲食店や雑貨店になっている。林の中は、商店街エリアだけ木から照明が