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母の差し歯は今いずこ?

先日、母がお世話になっている老人ホームから私宛に電話が掛かってきた。冒頭の「お世話になります」は良いのだが、続く言葉に呆気に取られた。

「お母様の差し歯がなくなったのですが、どうしましょうか?」

あまりにも想定外の問合せであり、私もしばらく思考停止に陥った。もし唐突にこのようなことを問われた場合、あなたならどう答えるだろうか?

思考停止が解けた私の頭の中では、以下の内容が頭の中を駆け巡った。
・何でなくなるのだろう。置き場所なんて決まっているよね。
・でも、認知症が入っているし、どこに置いたのかも忘れちゃったのかな。
・母の生活動線は、部屋と食堂の間しかないはず。
・当然、ホームの職員も探してくれたんだよな?
・この狭い範囲でどうやって差し歯をなくせるんだ?

私の脳内の疑問が伝わったわけではなかろうが、ホームの職員からは二の矢となる言葉が放たれた。
「もちろんお部屋の中は探したのですが、見つからないんです……」

こう言われると、どうにもならない。

無理矢理思いついた捜索箇所である布団の隙間、ベッドの下を見たのかも尋ねてみたが、そこも探したと言う。こうなると、探そうにも探せるところがない。沈黙していると、三の矢が飛んできた。

「来週、歯科の訪問治療がありますので、その際に新しく作ってもらうことは可能です」

そう言われたら、是非に及ばずではなかろうか? もちろん承諾する。

こんなやり取りを経て、早速母の差し歯の型取りが行われ、1ヶ月弱で新しい差し歯ができあがったという報告を受けた。

それ自体は一件落着なのだけど、なくなった差し歯が未だに見つからないのが気に掛かっている。

年を取ると失せ物が増えること、そして介護とはこういう事象に慣れることだと、改めて感じたできごとであった。

読んで頂いただけでも十分嬉しいです。サポートまで頂けたなら、それを資料入手等に充て、更に精進致します。今後ともよろしくお願い申し上げます。