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美味しいものを楽しく食べることが難しい

新型コロナウイルスが猛威を振るう前までは「美味しいものを食べる時は、ゆっくりと味わいながら至福の瞬間を楽しむべき」的なご意見が多勢であった。

できれば今でもそうしたい。しかしながら、飲食店は営業時間の短縮が要請される時代、美味しいものをゆっくり味わうことも夢のまた夢になっている。

そもそも、同じ店内のどの客が隠れウイルス陽性者なのかも分からない状況下で、完全個室でない店内での飲食ではリスクなしとは言えない。更に、仮に完全個室であっても通路やトイレは共用だし、店のスタッフとの接触は不可避である。

「黙って食べて会話をする時にはマスクをつける」ことが推奨されているが、現実的には難しい。それでも、自分だけではなくその店の客全員がそうしないならば、お互いの感染リスクが上がってしまう。

未知の美味しいものを口に含むと、頭の中で疑問が浮かぶ。「何だこれは……?」。その瞬間に懐疑的になり、何なのかを追求したくなる。

味蕾を通じて快楽が伝わってきて、咀嚼し飲み込む際に鼻腔に香りが流れ込む。それを嚥下して美味い酒で舌を洗う。間断のないこの一連の刺激に恍惚となれば、一緒に食べている人と共感したくなるのは道理である。

それなのに一言も発せず、全ては食べ終えてからとされるとなれば、かなり興を削がれることになる。

さすがにこれは極端だとしても、普通に美味しいものを食べながら、気心の知れた人と酒を酌み交わし語るのは、人生の大いなる喜びであろう。それがままならない現状は、こころから残念に思う。

「河豚は食いたし命は惜しし」というコトワザがあるが、今は「楽しく飲みたし命は惜しし」なのである。そして、河豚は最悪食べた本人が彼岸に渡るだけで済むが、新型コロナウイルスの感染は、更に他者に広がりかねない。

そこまで考え至れば、やはり「耐え難きを耐え忍び難きを忍ぶ」しかないのが現状である。

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