海原雄山ごっこに興じたり、真逆の味覚に驚いたり
私が学生時代に所属していた部活の部室には、誰かが買ってきた「ビッグコミック・スピリッツ」が置かれていた。
当時、掲載されていたマンガの中でも「美味しんぼ」はかなり人気があり、その独特の海原雄山語録は、通っぽさから競って取り入れたものだった。
生協で買ってきたおにぎりやサンドイッチを部室で食べていると、それを見た部員が「ふん、こんなものを美味いと思っているのか……」と言ってきたりして、単に空腹を満たすのに緊張感が漂うこともあったw
影響を受けやすい私は食べ物の味に興味を持つようになったが、貧乏学生でもあり、高貴な宝石を液体にしたみたいなワインってどんなのだろうと想像を膨らませたりはしたものの、口にしないまま現在に至ったものも多い。
同じゼミの某は真逆だった。例えばゼミの先生の誕生会でちょっと良い料理店に行った時に、隣席の私に「ねえ、これ美味い?」と訊いてきたのだ。
「えっ、美味しいかどうかがわからないの?」
訊かれた私は心底驚いた。それは自分の味覚で判断できることだと思っていたからだ。
でも、彼に言わせるとそうじゃないと言う。「多分美味しいんじゃないかと思うんだけど、自信がないんだよ。だから訊いているんだ」という彼の主張と臆面のなさに更にたじろいだ。
分からないという人に「分かれ」というのは無理である。そういう人がいるんだなあと思うしかなかった。
あれから幾星霜、子どもができてそちらが最優先になると、食べ物の味についての興味はかなり下がった。美食家にはなれなかったけれど、あまりガッカリはしていない。子煩悩な美食家っているのだろうか?
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