忖度せずに言うべきことを言った濱田國松のこと
以前、国会で公然と軍を批判した斎藤隆夫のことを取り上げた。以下の記事である。
この中で、濱田國松についてもちらっと触れた。そのまま放置するのも何となく決まりが悪いので、もう少しキチンと書いておきたい。
斎藤隆夫の反軍演説の3年前、やはり帝国議会衆議院本会議において、濱田國松議員が時の陸軍大臣・寺内寿一とかなりきわどい応酬を行った。これは一般に「腹切り問答」と言われている。
何と言っても、ベテランの国会議員が現役の陸軍大臣に対し「速記録を調べて私が軍を侮辱する言葉があるなら割腹して君に謝罪する。なかったら君が割腹せよ」と噛みついたのだから、ただ事ではない。
これが原因で、時の廣田弘毅内閣は総辞職することとなった。
濱田は衆議院議長も務めたことがあるほどの重鎮であった。だから、立場的には自重することもできたはずである。しかしそれを潔しとせず、軍の政治介入を批判する演説を行った。大したものだと思う。
この演説に、寺内陸軍大臣が「軍人に対しましていささか侮蔑されるような如き感じを致す所のお言葉を承りますが」とコメントしたのが、この問答の発端。率直に言いがかりであり、一往復した後に割腹発言となった。
「泣く子と地頭には勝てない」ではないけれど、強大な軍事力を持つ陸軍大臣を激怒させる覚悟と胆力は斎藤隆夫と同じであり、深く頭が下がる思いがする。
ただ斎藤とは異なり、濱田は高齢であった。結果論であるが、この問答の1年半後にはその生涯を閉じることとなった。
即ち濱田は、斎藤の反軍演説を聴くことはなかったのである。もし生きてその演説を聴いていたらどのような感想を持っただろうか? それがわからないのは、率直に残念だと私は思っている。
歴史にイフはないけれど、濱田が存命であれば日米開戦にも影響があったのかも知れないと考えたりもする。残念ながら、今の政治家にそれだけの器量を備えた者が見当たらないのは、イフではなくリアルである。
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