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看取りを経験する(その5)

先週と異なり、今週は丸々1週間出社予定です。根雪という言葉がありますが、疲れが身体の根っこに残っているような感覚は残っています。ここは踏ん張りどころだと自分に言い聞かせて頑張りたいと思います。

さて、……。

今回も、以下の記事の続きである。

母の容態は悪いなりに低位安定状態がしばらく続いた。それを確認して、従兄に状況説明のLINEを送ろうとしていたところ、いきなり母が大きないびきのような音を立てた。そして、モニターが「ピリリリリ、ピリリリリ、ピリリリリ……」と今までにない音を出した。

これまでのピオーン、ピオーン……よりも明らかに緊急性の高い音にたじろいでモニターを見る。すると、心拍数は0を表示していた。
(えっ……、心臓が止まったってこと?)

そう思ったけれど、10秒程度経っても誰も部屋にやってこない。いたたまれずにドアを開けて斜め前のナースステーションに向かって言った。
「母の心臓が止まっているようなのですけど……」

これに対するナースたちのリアクションは、私の想像の斜め上を行くものであった。
「はい、同じ画面をこちらでも見ております」
落ち着き払い、穏やかに応える彼女たち。でも何かをしようとする気配はない。

ここで、自分が無理な延命は求めないと伝えていたことを受けての対応だと悟った。老女の骨はモロく、強い心臓マッサージは肋骨が折れる可能性があると聞いていたこと、認知症になる前の母も延命を望んでいなかったことから、それはしない選択をしていたのである。

それに、この状態で心臓マッサージをして心拍が再開したとしても、酸素が体内に行き渡る状態にはならない。つまり、わずかに命を引き伸ばすことにしかならない。

そういうことを数秒間で考えた私は、母の部屋に戻った。これで終わったと思った。

しかし、戻って1分程度経つと、母はまたため息のような呼吸をした。心拍数は0のままである。正直驚いた。その直後、心拍数も23という表示が数秒出たりした。

(もしかして、息を吹き返したのか?)と思った。でも、それはまさに数秒程度のことで、また0に戻った。

その後、このようなことが何回か繰り返され、完全に何も起こらなくなるまでには15分程度は掛かったと思う。実はこの間、ずっと「ピリリリリ」という警告音は継続していた。

更に5分くらい経って、看護師の一人が部屋に入ってきた。モニターを確認して1度モニターの音を止めた。そして私に向かって言った。
「本日の担当医に診断してもらいますが、診断を聞くのはお一人様でよいでしょうか?」

「それは、私だけでもよいかという意味ですか」
私は確認も兼ねて問い正した。
「そうです。他に一緒に聞いて頂きたい方がおられたら、その方が来るまで待ちます」
「分かりました。ちょっと姉に聞いてみます」
そう応えると、そのまま姉に電話をした。

姉の「聞きたい」との返事を受けて看護師に伝えた。
「それでは、ご家族が来られたらお知らせ下さい」
そう言うと看護師は部屋を出た。私はまたしばらく母と二人で病室で過ごすことになった。

(続きます)。

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辻六道🥚
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