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知床海難事故で明らかになる船員法独特の世界観

午前中に頑張って庭木の手入れをしていたおかげで、雨が降る前に作業を終えられました。やれやれです。

さて、……

一昨日帰宅すると、知床で沈没した観光船の社長が記者会見に応じる様子が放映されていた。記者からの質問への回答が二転三転する場面もあり、たまたま流れでニュースを見ていた私も「?」とは思った。

ただ、一点意識されていないことがあると思う。船長は船舶の指揮者なのである。そして、船長業務を誰かに任せられない場合は、船長は船から去ることができないと法律で定められている。

船員法第11条(在船義務)
船長は、やむを得ない場合を除いて、自己に代わつて船舶を指揮すべき者にその職務を委任した後でなければ、荷物の船積及び旅客の乗込の時から荷物の陸揚及び旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去つてはならない。

船員法抜粋

よく「船長は船と運命を共にする」という表現を目にする。でも、法的には他に代わる者がいない限り勝手に船を下りられないのである。旅客の最後の一人の安全まで確保して下船させない限り、自分も下船できない。

そうなる前に船が沈み始めたらどうなるか。法的には船長の意思は問題とされず、船と運命を共にせざるを得ないケースも少なくないのだ。

船長は、船の指揮者であると共に、乗客のしもべでもある。この感覚を理解しないと、記者会見の理解も若干ピントがズレるように思う。

事故の発生において、一義的な責任の所在は船長になってしまう。それは、船長たる者は社長が何を言っても自ら判断してその受諾・拒否をする立場であるからに他ならない。この覚悟がないならば、船長になるべきではない。

そういう点で、船長は孤独な立場でもある。しかし、だからといって判断を避けるわけにはいかない。

社長をかばうつもりは更々ないのだけど、船の運航については船長が全責任を負うというのが、船員法の建て付けである。この点で、社長の責任は直接的ではなくなる。

もっとも、会社として乗客に対する安全配慮義務は当然ある。また船長を雇っていた会社は、やはりその使用者責任を負わなければならない。これらの点で、やはり社長は責任を免れられないだろう。

多くの視聴者は、社長の発言から逃げの意図を感じ取って憤りを感じていたと思う。ただ、あくまでも間接的なものに留まってしまうというのが私の見立て。

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