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新年、とある散歩の記録。

2018.1.1

福島県喜多方市の祖母の家にいた。僕は祖母の家に遊び行くといつも散歩しながら景色を見ることにしている。散歩には思考が研ぎ澄まされるような効果があり、ふだん考えないようなアイデアが生まれることもある気がする。

祖父の墓参りへ


昼寝から起きると、なんだか体がなまっている感じがしたので散歩に行くことにした。普段から特別体を動かす習慣があるわけでもないのだが、さすがに一日中こたつで過ごすのはよくない。

もう夕方の4時前だったので、行き先は決まらなかったが、ふと思い立って、祖父の墓参りに行こうと思った。祖父の墓は大した高さはないが山の上にある。昨晩雪が降ったことを思い出すとたどり着けるか不安ではあったが、とりあえず目的地とした。

家を出たころにはまだ明るかったが、冬の会津盆地が暗くなるのは思っていたよりもずっと早く、あっという間だった。雪道で歩きづらいということもあり、思うように進まない。人が良く通るところは足跡が重なって歩きやすくなっているが、だれも通っていないところではくるぶしよりも高く積もっているところもざらにあった。

しばらくは住宅街の中を通る道を歩いたが、その町なみも雪国特有のものだった。どの家も積雪対策で生け垣や植木に雪囲いをしている。玄関には松飾を掲げて日の丸を出している。神奈川ではこれだけ立派な松はほとんど見ない。

まっすぐ続く農道で日が暮れる

暫く住宅地を歩くと農業道路に抜けた。両側は雪をかぶった田畑が一面に広がっていて、すぐ横は川が流れている。朝は霞がかっていた飯豊山もはっきりと見え、前方、左右の山並みがとてもきれいだった。

どちらの方向を見ても山しかない。改めて盆地であることに気が付く。農道にしては大きめの道ではあるが、元日の夜ということもあってか車はめったに通らない。どこまでも静かで、2~3キロ先の幹線道路の車の音だけがかすかに聞こえる。あとは川の音と風の音、それ以外はひたすらに無音である。

だいぶ歩いて、空を見ると月がとてもきれいだった。その時は満月だと思ったが、後で調べると正確には一日前が満月だったらしい。背中側では厚い雲に覆われていて太陽そのものは見えないが、雲の明るさからどのくらい日が傾いているのかはわかる。暗くなる前には墓に到着できると思ったが、もうずいぶんと日が傾いていた。

長い農道を歩いていると、突然、ごうごうと音が鳴って台風のような風が吹いた。ひたすら平野なのに東京のビル風の何倍もの風が吹いた。家を出て間もなく暑くなって脱いだダウンジャケットが飛ばされかけたほどだ。その風がまたこの上なく冷たい。そしてその直後、あたりの上空が一瞬にして分厚い雲に覆われた。気温が一定以上下がったことで空気中の水分が云々ということだろうか。詳しいことはよくわからないが、寒い地域の夕暮れはこういうものなのかもしれない。灰色のどんよりとした雲のせいではっきりと見えないは見えないが、太陽はほとんど沈みかけていたと思う。

時折見える月の明かりを残してそれ以外の光がなくなり、なんだか恐怖心のようなものが出てきた。実際は5㎞ほどしか歩いていないが、あたりに漂う寂寥感はなかなかのものだった。

まだ夕方17時を回っていないが空は十分暗い。率直に田舎の自然は怖いな思った。雪でも降ってきたらと思うと自然と早歩きになる。歩くスピードを上げると長いと思っていた農道が意外と早く終わる。曲がらないまっすぐな一本道は実際よりも長く見えるものだ。そして独特の寂しさも持っている。

小高い山の上の墓地へ

幹線道路を横切ってもう一度車通りの少ない道に入ると、目的地はもうすぐだ。ここからは山なので少し上り道になる。改めて墓に行くことを思うと、ただでさえ不気味な暗闇の山へ入るのがひときわ怖く感じた。元日に墓参りに来る人なんていないのだろうか。

それまで、歩道は雪に埋もれていても車道に雪があることはなかったが、上り坂になってからは道全体に雪が積もっているところもあった。ほとんど車が通っていないのだろう。道が封鎖されていることはなく、そのまま墓地まで入ることができた。一度開けたところに出るが、そこから祖父の墓まで行くには山を登らなければいけない。

遠く若松の夜景がきれいだった。

階段で祖父の墓があるところまで登ることにした。階段には小さな動物の足跡が残っている以外、しばらく誰か人が立ち入った形跡はなかった。雪が長靴の高さぎりぎりまで積もっている。もはや階段の段がわからないくらいに雪が積もっていたので、手すりをつかまないと危険だった。

少し上ると平地になる。そこからまた、建物三階分くらいの階段を上らなければいけない。それまでは気が付かなかったが、上を見ると階段に覆いかぶさるように気が倒れているのが見えた。雪の重みに耐えられなくなっていたのか、もう寿命だったのか、かなり大きな木が横たわっている。階段がふさがれているのでこれ以上はさすがに登れない。他の木がいつ倒れてくるかもわからない。祖父の墓の前まで行って線香をあげるのは断念することにした。

その時今まで登ってきた道を振り返った。山とは呼べないほどの高さだが、それでも上から見るとそれなりの景色になっていた。喜多方市街がとても小さく見える。だいぶ遠くまで来たのだと実感した。

そして、さらに遠くを見るとものすごくきれいな夜景が見えた。マップを見て方角を確認すると、それは会津若松のものだとわかった。車だと30分、電車だと20分もかからないくらいだろうか。若松は喜多方よりも規模の大きい、会津地方の中心だ。

運転免許を取りたての頃、特に意味もなく神奈川近辺の夜景スポットをまわっていた。その時に見た神奈川のものと比べても光の量は変わらない。若松が会津、福島の中でもどれだけ栄えているかがわかる。

しばらく時間と寒さを忘れて夜の若松を眺めていた。周囲は山に囲まれて中心だけが明るく光っている。改めて会津が盆地なのだと感じた。

少し左を見ると、山の向こうの空がオレンジ色に光っている。また地図で方角を確認すると、磐梯山や猪苗代湖の方だった。スキー場があるから明るいのか?理由はよくわからない。ただ、喜多方の小さな山の中腹からでも会津若松が見え、磐梯山・猪苗代湖の気配を感じることができたことをなんだかうれしく感じた。

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写真はその時に撮ったものだが、この写真ではその夜景のきれいさは到底伝わらない。


年末にiPhone8+に機種変更して、その画質の良さに浮かれていたが、やはりiPhoneでは限界があった。あの景色は絶対に生で見てほしい。暫く何も考えずに眺めているだけで心が洗われる感じがした。また、雪のない時に行きたいと思う。

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