父、激走。女と耳について語る。

うちの父にタブーという言葉はない。

大晦日の昼間だった。

慌ただしく妹と一緒に、母のお節料理づくりを手伝っていた時である。
成人した女が三人寄ってワイワイと料理をしている横で、様子を覗きにきた父が、突然、妹に言った。

「ちょっと耳を見せてみぃ」

妹は何のことかわからず耳を見せた。

父は

「ありゃっ!これは、男が離れられんわぃ」

と言った。
続いて私にも耳を見せろという。
父は、私の耳を見て、

「ありゃ!お前もか…っ!」
と、言った。


何を確かめているのかわからなかったが、絶対にロクなことを考えてないというのは私も妹も察知していた。もちろん里芋を茹でる母も手に取るようにわかっていたであろう。

誰も深く突っ込まなかった。
そのまま聞き流してやろうと思ったのだ。
しかし、聞かれもしないのに、
父は言った。

「耳の上のとこがクルンと巻いている女は締まりがいい。二人とも巻いとる…」

妹と私はあまりにもバカらしい話に
「はあ?????」

父は嬉しそうに「うっしっしっしっし」と笑った。

耳の上部など大抵の人がクルンとなっているのではないかと妹が鼻で笑った。
そう、鼻が大きい、指がどうのという話とたいして変わらない都市伝説的な話。

しかし、よりによって、年末に、それも娘たちにいうことかと私たち姉妹は呆れかえった。

そして、いつものごとく、
母が、
「娘にバカなこと言わんのっ!」
と。

その年最後の雷が落ちた。
わりと大きめだった。

落雷により撃沈した父は、ダイニングテーブルに戻り、ひとり座って呟いた。

「お母さんの耳も、巻いとるよ」と。

妹と私は思わず母の耳を見た。

立派な…遺伝である。

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