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WSJ記事「武漢のウイルス流出疑惑、焦点は廃銅山」から読み取れること

世界を魅了して止まない「新型コロナ、武漢ウイルス研究所漏洩説」。前回までは、同説が再度注目されるきっかけをつくった英国人ジャーナリスト、ジョン・ウェイド氏の記事やウェイド記事の拡散を後押しした「中国人研究者たちがパンデミック前に生物兵器の話をしていた」という報道の真偽について検討しました。

WHO(世界保健機関)が総会を翌日に控えた2021年5月23日、今度は米大手「ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)」紙が「2019年秋、武漢ウイルス研究所(WIV)の所員3名が風邪症状を示し受診するほど重症度だった」と報道しました。

ただし、2019年の秋に同研究所に風邪症状の所員がいたことについては今年1月、米国務省がファクトシートで発表しており、WSJの報道で新しかったのは、「症状のあった所員の人数は3人で、病院の受診もしていた」という情報だけでした。

翌5月24日、WSJ紙はこの件に関する詳細を記した長編の続報を発表しました。

「武漢のウイルス流出疑惑、焦点は廃銅山(The Wuhan Lab Leak Question: A Disused Chinese Mine Takes Center Stage )」と題された同記事は、日本語でも2回にわたって公開され注目を集めました。


今回の記事では、調査報道の老舗、WSJ紙が報じた銅山の記事について詳しく検討します。また、次回記事では、なぜいま武漢ウイルス研究所からの漏洩説がこれほどまでに注目を浴びているのかについて考えます。

「武漢のウイルス流出疑惑、焦点は廃銅山(The Wuhan Lab Leak Question: A Disused Chinese Mine Takes Center Stage )」

By Jeremy Page, Betsy McKay and Drew Hinshaw
2021 年 5 月 26 日 11:34 JST
https://www.wsj.com/articles/intelligence-on-sick-staff-at-wuhan-lab-fuels-debate-on-covid-19-origin-11621796228

●映画の1シーンのような始まり

新型コロナの最初の感染者が見つかった湖北省の武漢からはほど遠い、雲南省の山奥にある銅山。そこは今、中国政府が設置した監視カメラと警備員による厳戒態勢で管理され、誰も近づけない状態になっている。そして夕闇が迫ると、頭をかすめるようにコウモリが飛び交い始める――。

映画のような1シーンから始まるこの記事は、自然変異説と漏洩説、両方の識者の言葉を引きながら両論併記の形式で話を進めては行くものの、最後には「漏洩説の可能性が高いのではないか」という読後感を残すものとなっています。

5月27日、WSJ誌が「武漢研ウイルス流出説、信頼性高まる」のタイトルの社説を出していることからしても、これは決して穿った読み方ではないと言えるでしょう。

この記事を読むにあたって注意して欲しいことが3点あります。

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