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結核を防ぐBCG、もしくは日本株のBCGにコロナから守られているという幻想

新型コロナの感染は、日本を含むアジア諸国では欧米に比して緩やかに推移してきました。その理由を結核の予防ワクチンであるBCGを接種していることに求める主張がありました。

ワクチンはふつう、特定の病原体をターゲットとしています。

たとえばBCGのターゲットは結核菌であり、BCGを接種したから麻疹にかからないとかインフルエンザにかからないといったことはありません。そもそも、数あるワクチンの中でもBCGの効果は高いとは言えず、結核感染の半分くらいしか防げません。

ところが、BCGには結核をターゲットとした強力な「獲得免疫」の他に、病原体一般の予防に関係する「自然免疫」を増強する副次的な効果が知られています。

これが「新型コロナの予防に効くのだ」という仮説を生み、その証拠に「日本をはじめBCGを定期接種としている国や地域は新型コロナの感染者が少ない」「特に日本株のBCGが有効だ」という主張がなされ、ひいては「日本人はマスクをしなくていい」「日本人には新型コロナワクチンも要らない」といった話になっていったのです。

しかし、BCGの専門家は、当初から違う意見を持っていました。

ここで言う「BCGの専門家」とは、一般的な免疫学者やちょっとワクチンや感染症に詳しい医者という意味ではありません。BCGという古典的な、そしてターゲットにしていない病原体に対しても少しだけ予防効果があるという不思議な特徴を持つワクチンを専門的に研究してきた人という意味です。

わたしは、そういった研究者2人に、直接質問をぶつけてみることにしました。

ひとりは、オーストラリアのマードック小児科研究所(Murdoch Children’s Research Institute)でBCGの新型コロナワクチンとしての効果と安全性を調べる治験を統括するナイジェル・カーティス教授。もうひとりは、結核予防会結核研究所の名誉所長、森亨氏です。

カーティス氏は、昨年、医学誌「ランセット」に、「BCGが新型コロナの影響を抑える可能性(Considering BCG vaccination to reduce the impact of COVID-19)」というコメンタリーを書いています。日本でも一時期話題になった、「訓練免疫」についても触れたコメンタリーです。

つまり、カーティス氏は「BCGは新型コロナに効くんじゃないか」と期待をしている研究者ということです。

(ちなみにこのコメンタリー、共著者はWHOのテドロス事務局長です。ご興味のある方は、読んでみてください。)

ご存知ない方もおられるかもしれませんが、戦後の日本の結核・BCG研究の発展は世界的に見ても目覚ましいものがあります。一方の森先生は、すでに第一線を退いているとはいうものの、日本の結核・BCG研究史と共にいると言っても過言ではない世界一流の研究者です。

まず森先生の基本的な見解は、「BCGのもつ自然免疫増強効果は接種からせいぜい半年程度。子どものときに接種したBCGの自然免疫増強効果が、成人になってからも持続することは考えられない」というものでした。

一方、カーティス氏からは、

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