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引用を知り、マンガの画像付き感想ツイートをちゃんと行おう。

※2020/9/12 いろいろ意見あったので加筆しました。あと最後に判例についてのご意見を項目を増やし回答しました。

キン肉マンの1件でみんながみんな大慌てだ。マンガの1部をアップロードしても著作権法上許されてるだとか、いやこの間の著作権法の改正でもアップロードはダメだダウンロードが一部オッケーとか、いろいろ言われている。

いやいや。そうじゃない。ワタシが思うに今話すべきは、マンガの画像をツイートして感想を述べた場合、この画像が引用として認められるのかどうかだ。

ワタシは感想ツイートに用いられたマンガの画像は、引用になると考えている。キツイ文字制限のあるTwitter上での短い感想だったとしてもである。文章の長さで引用になるかどうかを判定するのならば、卒業論文を書いている大学生諸君は教授にもう怒られることはないと大喜びだろう。

長さではなく引用のルールを守っているかどうかが肝である。

引用のルールさえ理解していれば、感想ツイート百戦危うからずである。引用の範疇ならば、「お前のツイートは著作権違反だ」と訴えられる心配はない。いや、正しくは訴えられる可能性が消えることはないが、負ける可能性は極端に低くなり世論も味方してくれるようになるはずだ。

ということでこの記事では、司書資格と初級だけどサーチャーの資格も持っているゲームライターのワタシが、簡単な引用の作法をレクチャーしよう。

引用とは

そもそも引用とは、自分がなにかしらを説明したいときに誰かの著作物を借りることだ。先行研究を参考にする引用ばかりではなく、ご近所の美味しいお店マップを作りたいから雑誌のグルメ情報を引用するというのも別にオッケー。もちろんこのマンガのここがすごいんだと解説するのもオッケーだ。

引用は著作権法上誰にでも認められている。著作者、著作権保持者すらも引用を止めることはできない。なぜなら、もし大事な研究に間違いがあったとしたら、誰かがそれを間違いだと証明できるからである。著作者が引用すんな!なんて言い出したら間違ってようがなんだろうがやりたい放題になってしまう。これはマンガなどの文芸の研究でも言えることである。出版社や作者が商売の邪魔なのでうちの本をこき下ろす研究はやめろとか言ってきたら、研究のしようがない。

だから、引用に対して著作者はなにも言うことはできないようになっている。著作者や著作権保持者に引用の許可を取ることすら必要がない。なのでマンガのページをツイートしたとしても引用になっていれば誰にも怒られないのだ。

あれ?それって無断転載じゃないの?という疑問を感じる人も多いだろう。実は引用は著作者に許可を取らず行う無断転載である。だが、法律上「こういうルールに従えば、無断で転載してもいいよ」というのが引用なのだ。公益のために残された抜け穴、研究者のための権利が引用なのである。もちろん、全文転載なんてことは引用のルールでも禁じられている。(俳句とか全文転載以外どないすんねんという議論はある)

引用足り得るマンガの画像付きツイートの仕方

引用には大事なルールがいくつかある。まず、借りたものと自分が書いたものが誰が見ても別々に分かれている必要がある。どこを借りたのかはっきりさせておかないと、借りたものを勝手に書き換えができてしまう。なので、自分の文章の中にいい感じで混ぜるのは引用とは言えない。

さて今回のマンガの画像をはっつけて感想をツイートした場合であるが、Twitterの仕様上画像と自分のツイートはしっかり分かれて表示される。自分が書きましたとでも言わない限りこのルールはクリアできるだろう。もちろんその内容を勝手に改変してはいけないが、感想を述べたいのにマンガのコマに自分で絵を書き足すやつはいない……と思う。

次に、もっとも大事なのは引用する理由がちゃんとあるかということ。自分が語りたい内容を説明する上で、その引用が絶対に必要だとあなたが思うなら引用してもいいというルールになっている。そう、ここでお気づきだろう。自分が今、世の中に放ちたいと思っているマンガの感想にマンガの画像が必要だと思うならば、著作者や著作権保持者の許可などなくとも勝手に引用してもいいのだ!

ただ、むりくり必要だ!と言うことはできない。ちゃんとそれを読んだ人が引用を納得できる内容を用意しないといけないということにもなっている。引用の主従関係と言うのだが、要するに自分の意見がちゃんとメインに存在して、その補足のために引用が存在する構造じゃないと引用とは認められない。

例えば、このマンガのシーンエモい!このシーンと共に別のイラストを貼ってこの感情を表現しよう!というのをTwitterではよく見るだろう。あれは引用とは言えない。別のイラストは自分の言葉じゃないし、エモいシーンを引用した理由も説明できていないからだ。

わかりにくいかもしれないが、ワタシが考えた引用足り得る具体例を出そう。

僕ヤバの53話の最後のコマ、今気づいたけど桜井のりお先生がツイッターに2019年末にアップした年越しイラストと場所が一緒じゃん!9ヶ月も前から今回の話を用意してたのか?それとも後から組み合わせたのか?どちらにせよ桜井のりお先生はすごい!

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『僕の心のヤバイやつ Karte.53 僕は声が聞きたい』(掲載サイト:マンガクロス 著者:桜井のりお 公開:秋田書店 掲載ページ数:p9 URL:https://mangacross.jp/comics/yabai/58 2020.09.11アクセス)

こういうツイートをしたとしよう(上記内容と年越しイラストのURLで1ツイート、引用情報を追加して2ツイートに収まるようにしてある)。このツイートはこの2つのイラストの場所が一致していることを指摘したい感想ツイートである。この発見をツイートを見た人に教えるためには、コマとイラストを引用するのはしかたがない。そう見た人は納得するはずだ。また、例え絵がなかったとしてもこの発見とその感動を伝える内容は理解できるだろう。これが引用の主従関係である。主従関係なんて小難しい呼び方なので、引用のことを難しく感じるかもしれないが、自分の言いたいことさえしっかりしていれば主従関係は自動でクリアされる。もし140文字では自分の意見が薄く説得力が足りないと思ったら、引用を諦める前にツイートを追加して対応しよう。あなたの意見をしまい込んでしまうくらいなら長々説明を書いたほうがずっといい。

ちなみにマンガをどれくらい引用するのかはわりとシビアな部分だ。適当にコマを切り取ってしまうとマンガという媒体の連続性が損なわれてしまい引用となりえないパターンもあれば、かといってまるまる1ページ引用するといらない部分が発生してこれが引用の範疇にない転載と捉えられる場合もある。これは裁判でも争われたかなり難しい問題だ。だがポイントはそんなに難しくない。ようは、なぜそれを引用しているか読み手が納得すればいいのだ。主従関係がきっちりクリアできていれば問題ないと言える。必要な分を必要な形で引用しよう。上の例では必要な最後のコマだけ切り取って年越しイラストと比較する引用を行っている。

(このツイート内容自体も実はTwitterで見かけた例を参考にしているのだが、探しても元のツイート見つけられなかった。もうしわけない。情報求む)

そして最後にもう一つ大事なルールが引用情報を記すことだ。なぜ引用情報を併記しなければいけないのかというと、引用情報がないと読んだ人が引用した元の作品や文章を確認できないからである。引用元を確認できないと、引用された内容が勝手に書き換えられていないか確認ができないし、なにより他の人が引用元を見てさらに議論を深められない。

もしかすると、さっきの僕ヤバの例なら「いや!これは場所が同じではあるけど時間が同じとは言えないぞ!」という反対意見が出るかもしれない。そういう感想が広がる余地を生み出すためには、引用情報をきっちり書いておかないといけないわけだ。

実は引用情報は読んだ人が引用元までちゃんとたどり着ければそれでいい。なので、Web掲載マンガなんかは、URLを貼るだけでも一応は引用情報を満たしていることになる。だが、インターネットの情報はいつ更新されたり消されたりするかわからないものだ。また、本なんかだとタイトルだけではなかなかその本にたどり着けないことも多い。

なので、できる限り細かく丁寧に引用情報は書いておくべきだ。タイトル、著者名、公開している会社の名前、発売日、発行日……。厳密な引用情報の書式に従うと掲載ページ数や行数まで書くことになるが、そこまではしなくてもいい。が、できる限り引用元へたどり着けるように気を配ってあげてほしい。感想の最後にツイートを追加して、引用情報を付けておけば御の字だろう。

また、インターネットのサイトは簡単に更新できるので読んだ人が辿ったときには内容が変わっていることもあり得る。アクセス日時を併記しておくのがいいだろう。

オタクよ。軽率に引用しろ。

以上の点を踏まえれば、マンガの画像付きツイートは引用足り得るはずだ。今回例に出した僕ヤバのツイートは画像引用の必要性がわかりやすいものではあったが、もっとゆるいものでも個人的には問題ないと考えている。

「こういう顔の男に弱いんです!わかりますか?推しの顔の共通点よ!」

というツイートに推しの画像を並べるのも、引用という観点で見れば正しいはずだ。だって、自分の好みを説明するために画像を引用する必要性は十分ある。無論、これだけでは量の問題を指摘する人もいると思われるので、可能なら自分の好みをツイート内容でも説明してほしいところではあるが。とにかく、感想・評論という自信の発信したい情報のために引用することは、我々に許された権利である。

もっと軽率に引用してほしい。引用は我々に許された権利だ。権利は行使せねば、いずれ潰されてしまう。引用のルールに則り、様々な思いを世に送り出してほしいと願う。

最後に注意

あと、TwitterにはTwitter社の規約があり、そこに引用のルールも決められている。Twitter上のツイートを引用する場合、ツイートをそのまま使わねばならないという決まりだ。僕ヤバの年越しイラストもツイートで発表されている以上、このルールに従って引用しなければいけないというわけだ。例にあげたツイートがイラストだけを並べていないのはそのためである。ツイートを引用するときは、画像だけでなくツイートごと貼れ。

頂いたご意見について

コマを切り取った場合引用ではない判断されるかも……というリプライいただきました。これはおそらく「脱ゴーマニズム宣言事件」の判例により、危険回避意識の周知によるものだと考えられます。しかしながら、脱ゴーマニズム宣言においての引用は引用元から配置を変更し引用元の流れを変えたために違法とみなされたパターンであります。通常のコマ切り抜きとは全く異なるものです。この判例はコマの連続による展開もまたマンガの一部、つまり著作の重要な要素であると判断されるというものであり、これを元にコマ切り抜きそのものを悪とすることは判例そのものを歪めて捉えています。もちろんコマの順序を並べ替え改変することは著作権法20条2項4号のいう「やむを得ない改変」ではありません。ですが、コマの切り抜きを悪とし絶対にしないという運用は、余計な転載という別の危険を生み出すことに繋がります。必要な形で必要な分を引用することこそが寛容と筆者は考えております。

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