見出し画像

THP指針をご存知ですか?

こんにちは、りこ@産業医兼労働衛生コンサルタントです。
今回は、令和3年2月8日に改正となった「事業場における労働者の健康保持増進のための指針(通称THP指針)」について書いていこうと思います。THPとは、Total Health promotion Planの略で、厚生労働省が働く人の「心とからだの健康づくり」をスローガンに進めている健康保持増進措置のことを指します。

はじめに

令和2年3月31日事業場における労働者の健康保持増進のための指針の改正が公示され(第7号)、令和2年4月1日より適用となりました。

この改正ポイントを図にまとめてありましたので、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」の改正について という厚生労働省の資料から引用して掲載します。

画像1

今までの指針では、「生活習慣上の課題を有する労働者」が対象でしたが、公示第7号からは幅広い労働者が対象となり、それぞれの事業場の規模や特性に応じて健康保持増進措置の内容を検討し実施できるように見直されました。そして、健康保持増進対策を進める上で、PDCAサイクルを回しながら進めることなどが記載されています。

令和3年2月8日、事業場における労働者の健康保持増進のための指針公示第8号が公示されました。この指針の冒頭にある「趣旨」を引用します。

近年の高年齢労働者の増加、急速な技術革新の進展等の社会経済情勢の変化、労働者の就業意識や働き方の変化、業務の質的変化等に伴い、定期健康診断の有所見率が増加傾向にあるとともに、心疾患及び脳血管疾患の誘因となるメタボリックシンドロームが強く疑われる者とその予備群は、男性の約2人に1人、女性の約5人に1人の割合に達している。また、仕事に関して強い不安やストレスを感じている労働者の割合が高い水準で推移している。
このような労働者の心身の健康問題に対処するためには、早い段階から心身の両面について健康教育等の予防対策に取り組むことが重要であることから、事業場において、全ての労働者を対象として心身両面の総合的な健康の保持増進を図ることが必要である。 なお、労働者の健康の保持増進を図ることは、労働生産性向上の観点からも重要である。
また、事業場において健康教育等の労働者の健康の保持増進のための措置が適切かつ有効に実施されるためには、その具体的な実施方法が、事業場において確立していることが必要である。

全ての労働者を対象とした健康保持増進が、会社のためにも大切であることがよくわかります。では具体的にどのように対策を進めたら良いのか、についてはこの後に書かれています。

健康保持増進対策の基本的な考え方

労働者一人一人が健康を保持増進するためには、個人個人が自主的に、自発的に健康保持増進に取り組むことが重要ではありますが、労働者の働く職場にある労働者自身の力だけでは取り除くことができない疾病増悪要因、ストレス要因に対して、事業者が積極的に健康保持増進対策を行うことが必要となります。
この「健康保持増進対策」とは、労働安全衛生法第69条第1項の規定に基づいて事業者が労働者の健康保持増進のための措置を継続的かつ計画的に講ずるための方針の表明から計画の策定、実施、評価等の一連の取り組み全体をいいます。下記に中災防安全衛生情報センターの労働安全衛生法第69条を引用します。

第六十九条 事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。
2 労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。

事業場における労働者の健康保持増進のための指針公示第8号の「2 健康保持増進対策の基本的考え方」から引用した文章を載せます。

その健康管理も単に健康障害を防止するという観点のみならず、更に一歩進んで、労働生活の全期間を通じて継続的かつ計画的に心身両面にわたる積極的な健康保持増進を目指したものでなければならず、生活習慣病の発症や重症化の予防のために保健事業を実施している医療保険者と連携したコラボヘルスの推進も求められている。

「コラボヘルス」という言葉をご存知でしょうか?厚生労働省から出されている「コラボヘルスガイドライン」から引用しますと、

厚生労働省が推進する「データヘルス」の取組みは、平成 27 年度当初から、経済産業省が推進する 「健康経営」 と、省庁の垣根を越えて "車の両輪" として推進してきました。つまり、健康保険組合等が実施する「データヘルス」と企業(事業主)が実施する「健康経営」とは、当初から健康保険組合等と企業が一体で取り組むこと(コラボヘルス)が重要視されていたのです。

つまり、「健康保険組合のデータヘルス」と「各企業の健康経営」を組み合わせて取り組む健康保持増進措置ということになります。

下記の図は全て「コラボヘルスガイドライン」から引用しました。図20の(1)平均年齢上昇とは、一般労働者の平均年齢が、昭和 56年の 36.9 歳から平成 27 年の 42.3 歳に上昇しており、35 年間で 5.4 歳も上昇していることを指します。今後はさらに上昇することが予想されています。(2)人材不足とは、以前にもnoteで書きましたが、生産年齢人口が恐ろしく減少することが予想されています。

この2点からも、現在勤めている従業員の健康を守り、長く安心安全に働いてもらえる職場を作ることが、企業の経営に直結すると考えられています。従業員は企業の宝なのです。その一人一人を大切にし、健康保持増進措置を講ずることは、企業価値を上げ、業績を上げることにつながっているのです。

画像2

コラボヘルスは企業側と健康保険組合側のそれぞれの集計データをもとに、健康保持増進措置を「健康経営推進会議」等で一緒に検討し、それぞれの役割分担に沿って実行し、実行後の経過や結果を分析し、さらに課題を見つけて計画をたて実行する、というPDCAサイクルを繰り返すことです。

画像3

健康に関する情報はプライバシー情報であり、「特に知られたくない情報」に当たります。そのためプライバシー権を侵害しないかどうかはとても重要な観点となります。集計データを利用する時には、下記の図の中にも記されているように、利用する目的を明確化し、活用のために必要最小限の集計データとはどういうものなのか、代替可能なデータはないのか、そして加入者の権利利益を侵害する恐れがないかどうか、管理体制は十分なのか、等の留意事項を十分に考慮した上で、取り組みを進める必要があります。コラボヘルスガイドラインの中では、具体的な事例や、覚書書についても記載されていますので、ご参考になさってください。

画像4

画像5

コラボヘルスに当たって必要なチェックリストもコラボヘルスガイドラインに載っていたので引用しました。

健康保持増進対策の進め方

①健康保持増進方針の表明
まずは、事業者が健康保持増進を積極的に支援することを表明しましょう。

②推進体制の確立
次に、事業者は事業場内の健康保持増進対策を推進するための実施体制を作ります。具体的には、
(1)事業場内の推進スタッフ・・・産業医、衛生管理者、事業場内の保健師等の事業場内産業保健スタッフ、人事労務管理スタッフ、運動指導ができる人やメンタルヘルスケアができる人等の専門スタッフ
(2)事業場外資源・・・労働衛生機関、中央労働災害防止協会、スポーツクラブ等の健康保持増進に関する支援を行う機関、医療保険者、地域の医師会や歯科医師会・地方公共団体等の地域資源、産業保健総合支援センター
(1)(2)を活用し、健康保持増進対策の実施体制を整備して、確立します。

③課題の把握
先程の推進体制を確立した後、課題を見つけていきます。労働者の健康状態等が把握できる客観的な数値等を活用して見つけていくのですが、コラボヘルスでも取り上げたように、健康診断結果や問診の内容などの健康保険組合の保有するデータと、勤怠やストレスチェックの結果など事業主が保有するデータを集計し活用することも重要となります。

④健康保持増進目標の設定
事業者は、健康保持増進方針に基づいて、③で把握した課題や過去の目標の達成状況を踏まえて、次の目標を決めます。そして、一定期間に達成すべき到達点を明らかにします。中長期的な指標を設定することで、次の目標が明らかになり、計画が立てやすくなります。

⑤健康保持増進措置の決定
事業者は、方針や把握した課題、設定した目標を踏まえて、事業場の実情も合わせて考えて健康保持増進措置を決定します。
この措置には健康指導が含まれます。この健康指導を行うために健康測定(産業医が中心となって健康診断を活用しつつ追加で生活状況調査や医学的検査等を実施)を実施し、その結果に基づいて各労働者の健康状態に応じた必要な指導を決定します。そして事業場内の推進スタッフが労働者に対して健康指導を実施します。
健康指導の内容は(1)運動指導(2)メンタルヘルスケア(3)栄養指導(4)口腔保健指導(5)睡眠・喫煙・飲酒等に関する健康的な生活に向けた保健指導、です。
また事業者は、希望する労働者に個別に健康相談等を行うように努めることも必要になります。さらに、健康保持増進に関する啓発活動を行い、事業場の環境を整えることも措置の中には含まれます。

⑥健康保持増進計画の作成
事業者は、設定した目標を達成するため、健康保持増進計画を作成します。
計画には、措置の内容と実施時期、期間、実施状況の評価と計画の見直しについて具体的に記します。

⑦健康保持増進計画の実施
事業者は健康保持増進計画が策定された後は、その計画を適切に、継続的に実施します。実施するために必要な留意すべき事項も定めましょう。

⑧実施結果の評価
事業者は、健康保持増進対策の実施結果等を評価し、新たな目標や措置等に反映させ今後の取り組みを見直します。

このようにPDCAサイクルを回して、繰り返しながら、それぞれの事業場の実態に即した適切な健康保持増進措置を作り上げていきます。

以上となります。長文となりましたが、ご理解いただけましたでしょうか?
THP指針は改正されたばかりなので、もしかしたら質問されるかもしれません。リンクなども参考にしながら覚えていただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。「スキ」ボタンを押していただけると嬉しいです。サポートもしていただけると、とても励みになります!