見出し画像

ストレスチェックとは何か?

こんにちは、りこ@産業医兼労働衛生コンサルタントです。今回はストレスチェックから職場環境改善までを書いていこうと思います。

ストレスチェック制度

平成27年12月より、労働者数50名以上の事業場において、1年に1回ストレスチェックを実施することが義務付けられました。厚生労働省から「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」が平成27年4月15日公示第1号として発表され、その後2回改正され、平成30年8月22日公示第3号が発表されています。この公示第3号から下記の文章を引用します。

近年、仕事や職業生活に関して強い不安、悩み又はストレスを感じている労働者が5割を超える状況にある中、事業場において、より積極的に心の健康の保持増進を図るため、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31 日付け健康保持増進のための指針公示第3号。以下「メンタルヘルス指針」という。)を公表し、事業場における労働者の心の健康の保持増進のための措置(以下「メンタルヘルスケア」という。) の実施を促進してきたところである。
しかし、仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者が、平成18年度以降も増加傾向にあり、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することが益々重要な課題となっている。
こうした背景を踏まえ、平成26年6月25日に公布された「労働安全衛生法の一部を改正する法律」(平成26年法律第82号)においては、心理的な負担の程度を把握するための検査(以下「ストレスチェック」という。)及びその結果に基づく面接指導の実施を事業者に義務付けること等を内容としたストレスチェック制度が新たに創設された。

「心理的な負担の程度を把握するための検査」を「ストレスチェック」と簡単にわかりやすく表現しています。メンタルヘルス不調の一次予防のためにストレスチェックを役立てようというわけです。

ストレスチェックの流れ

厚生労働省 「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」の中で示されていた図を下記に引用します。

画像1

1)実施前に、まず、事業者が会社として「メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェック制度を実施する」旨の方針を表明しましょう。次に、事業場の衛生委員会で以下のことを審議します。
①誰に実施するのか?
②いつ実施するのか?
③どんな質問票を使うのか?
④どんな方法でストレスの高い人を選ぶのか?
⑤面接指導の申し出は誰にすれば良いのか?
⑥面接指導はどの医師に依頼して実施するのか?
⑦集団分析はどんな方法で行うのか?
⑧ストレスチェックの結果は、誰が、どこに保存するのか?
審議後に決定した事項を社内規定として明文化し、すべての労働者に周知しましょう。そして、制度全体の担当者、ストレスチェックの実施者(外部委託も可能)、面接指導を担当する医師(主に産業医)を決めます。

2)実際にストレスチェックを実施します。国が推奨する57項目の質問票を労働者に配り、記入してもらいましょう。オンラインでも実施可能となり、厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムをダウンロードして使用できます。
記入が終わった質問票は、ストレスチェックの実施者が回収します。この時、質問票の内容を第三者や人事権を持つ職員が絶対に閲覧してはいけません!!
そして、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師、精神保健福祉士の中から選ばれたストレスチェック実施者がストレスの程度を評価し、高ストレスで医師の面接指導が必要な者を選びます。そして結果はストレスチェック実施者から直接本人に通知されます。この結果は企業には返ってきません。結果を入手する場合には結果の通知後、本人の同意が必要です。その結果は医師などの実施者が保存します。

実際には、個人情報の取り扱いが非常に重要であること、職員が安心して受検できる環境をつくるということ、そして集団分析も含めて結果をまとめてもらえるというメリットなどから、外部委託して実施することが多いと思います。毎年ただストレスチェックをすれば良いということではなく、その結果を本来の目的である「メンタルヘルス不調の一次予防」に活用することがとても大切です。ここに時間をかけて事業場内で審議し、PDCAサイクルを回しながら改善を目指していくことが求められています。

3)ストレスチェック結果の活用
結果の活用もとても大事なのですが、ストレスチェックの質問票を読みながら、自分の中のストレスに気づいたり、症状を自覚したりすることができます。ストレスの状況に気づけた時から、セルフケアを開始することが勧められています。結果を見てから気づくこともあると思います。そのため、ストレスチェックを実施した段階で、セルフケアについて研修会を実施したり、セルフケアについての掲示をしたり、メンタルヘルス不調のサインについての案内を再度配布したりするなどの取り組みをすることで、さらにセルフケアを推し進めメンタルヘルス不調の一次予防を実施することができます。
高ストレス者への医師の面接指導については、対象者が面接指導を申し出ててくれるかどうかがとても重要になります。面接指導を申し出るということは自分が高ストレス者であることを打ち明けなければならず、今後のキャリアに影響してしまうのではないか、また医師と面接することで病気と診断されてしまうのではないか、という不安がどうしても拭い去れないために、高ストレス者に該当しても面接指導に繋がらないことが多いのが現実だと思います。

では、なぜ医師の面接指導が必要なのでしょうか?
厚生労働省「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル」のなかで下記のように書かれています。その文章を引用します。

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)には、医師による面接指導の規定が2つあります。1つは、第66条の8の規定に基づく長時間労働者(時間外・休日労働時間 が1月当たり100時間以上の者で疲労の蓄積が認められる者)を対象とする面接指導であり、もう1つは、第66条の10の規定に基づく高ストレス者(ストレスチェックの結果、高ストレスであり、面接指導が必要であるとストレスチェックの実施
者が判断した者)を対象とする面接指導です。これらの面接指導は、過労やストレスを背景とする労働者の脳・心臓疾患やメンタル不調の未然防止を目的とするものであり、産業医等の医師は面接指導の場において対象労働者に指導を行うのみならず、事業者が就業上の措置を適切に講じることができるよう、医学的な見地から意見を述べることが大変重要となります。また、働きやすい職場づくりを進めるため、面接指導から得られた情報を職場改善につなげるための意見を述べることも重要です。

この文章にもあるように、対象労働者にストレスの気づきと、ストレスによる症状の有無について聞き、それにどのように対処すれば良いか提案し、また対象労働者が安心して働けるように就業上の配慮を一緒に考え、必要な職場の環境改善についても話し合い、労働者本人への助言と合わせて事業者への指導、助言をするために、面接指導がとても重要で、かつ必要不可欠なのです。より安心して働き続けるためにも医師や保健師等の産業保健スタッフが手助けできることもありますので、高ストレスという指摘があった場合にはぜひ医師の面接指導を受けていただきたいと思います。

仕事のストレス判定図

ストレスチェックの集団分析結果には「仕事のストレス判定図」があり、これは個々人の同意がなくても事業者が知ることができます。これを活用することにより職場全体のメンタルヘルス不調の一次予防を実施することができます。

仕事のストレス判定図は、「仕事の量的負担」「仕事のコントロール(裁量度)」「上司の支援」「同僚の支援」の4つの仕事上のストレス要因に注目して、ストレスの大きさとその健康への影響を判定しており、メンタルヘルス不調の起きやすさを知ることができます。標準集団を100として、各得点が交差する点が120のライン上にあれば健康への影響が20%多めに、80のライン上にある場合は20%少ないと推定できます。

ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究成果物「職場環境改善スタートのための手引き」から下記の図と文章を引用します。

画像2

仕事の量的負担の点数が高いほど、また仕事のコントロールの点数が低いほど、ストレスが生じやすいと考えられます。業務量がある程度多く忙しい状況であっても、自分で判断したり工夫したりするなどの裁量権が与えられている場合にはストレスが少なく、生産性も向上すると考えられています。

画像3

上司の支援と同僚の支援が得られている職場では、ストレスは少なく、支援が得られない職場はストレスが生じやすいという判定となります。

画像4

総合健康リスクが100を超えていて、かつ高ストレス者の割合が国の基準である10%以上の職場は、実際に業務負荷が高く、かつ労働者が疲弊している可能性があります。この場合には過重労働やハラスメントの有無、労災のリスクの有無、そして管理者が疲弊していないかどうか等を確認し、支援や指導が必要となります。また、全職員に対して、産業保健スタッフや外部のカウンセラー等を活用し、職場の実態把握と受診勧奨の必要性の有無なども検討していく必要があります。高ストレス者と判定された方が面接指導の申請をしやすいような環境の整備や気軽に相談できる雰囲気作り(健康相談会などの実施等)も大変重要です。

職場環境改善

ストレスチェックの結果を活用して職場の環境改善を進めていくことがとても重要です。「職場環境改善スタートのための手引き」から下記の図と文章を引用します。

画像5

この図にもありますが、この4つのストレス要因以外にもストレスの原因はたくさんあります。その職場ごとのストレス、労働者ごとのストレス等多岐にわたります。職場ごとのストレスに関しては職場巡視等から得られた情報と管理者や労働者の意見を総合して衛生委員会でストレス要因について話し合い、その要因を改善するような職場の環境改善を進め、少しずつ快適な職場に近づけることが求められています。労働者ごとのストレスは医師や保健師等が一人一人と面談し、必要な場合には医療機関や公的機関を紹介し、各個人に合った方法で改善へと導くことが求められています。

こころの耳に掲載されている、職場環境改善ツール内の、「いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き」を活用されると良いと思います。この中の、現業版とオフィス版のアクションチェックリストはわかりやすくまとめられていて、すぐにでも活用できる良いツールだと思います。ストレスチェックをしっかり活用して、ぜひ快適な職場づくり、気軽に話し合える雰囲気づくりを実現していきましょう。

ストレスチェック制度に関するお勧めサイト

厚生労働省 こころの耳 「ストレスチェック制度について
厚生労働省 「ストレスチェック制度関係 Q&A
厚生労働省 「ストレスチェック制度簡単導入マニュアル
厚生労働省 「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について
ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究成果物「職場環境改善スタートのための手引き
厚生労働省 こころの耳「職場環境改善ツール」「いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き

以上です。長文になりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。ストレスチェック制度については始まったばかりであり、メンタルヘルスと合わせて試験にも出やすいと思いますので、読んで参考にしていただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。「スキ」ボタンを押していただけると嬉しいです。サポートもしていただけると、とても励みになります!