サハラ砂漠の野生ラクダ
パウロ・コエーリョ原作の小説「アルケミスト」はサハラ砂漠を舞台に少年がエジプトを目指す旅物語です。少年は旅の途中、キャラバンと共に砂漠を横断しようと試みます。そこで存在感を表すのがラクダです。あらすじに惹かれ何気なく読んでみた一冊ですが、読み終えて一つの疑問が頭に浮かびました。
「野生のラクダって、いるのだろうか。サハラ砂漠に。」
サハラ砂漠は東はエジプト、西はモーリタニアまで広がり大陸を横断する世界最大の砂漠です。
ラクダは家畜動物というイメージがありますが、この広さならば、人に飼育されていない野生ラクダの一頭や二頭いるのではないかと思い、調べてみることにしました。
ラクダという動物について
早速ですが、ラクダという動物について説明します。ラクダの起源は北アメリカ大陸にあります。約4500万年前にウサギほどの大きさのラクダ科動物が北アメリカに出現しました。その後、徐々に巨大化し、約800万年前にユーラシア大陸へ移動しました。
当時、二つの大陸はベーリング地峡によって結ばれていました。ラクダの祖先はここを渡ったと考えられ、実際に北極圏ではラクダの仲間の化石が発見されています。
現在ラクダは大きくヒトコブラクダとフタコブラクダに分けられ、多くが家畜として飼育されています。上の画像のラクダも人に飼われているもので、乗り心地はあまり良いとは言えません。乗り降りはラクダが座った状態で行います。乗る時は楽々ですが、降りる時はラクダが前足から曲げて座るので、その勢いで前に振り落とされそうになります。足が長い個体ほど、落差があるので注意です(どこで乗ったのかについては後ほど)。
北アメリカから南アメリカに進出したラクダの仲間はビクーニャやアルパカ、ラマといった高地で暮らす動物に進化しました。潤んだ瞳と正面から見た口や歯の出っ張り具合はラクダと瓜二つです。
ラクダが家畜化された理由として大きく二つが考えられます。一点目は普段から乳や毛が採れ、いざとなれば食料として役に立つこと、二点目に一日に100km移動が可能で、餌量も馬の半分で済み、乗り物として役に立つということです。最初にラクダが人に飼われたのは、新石器時代(約1万年前〜)でモンゴル南部で行われたと考えられています。
さて、ここまで調べて驚きの、出来れば知りたくなかった事実が分かりました…。その昔、野生ラクダはサハラ砂漠にもいたそうですが、人間に狩られて絶滅してしまったということです。今は家畜としてのラクダがいるだけです。しかし、人に飼われていたラクダが野生化することがあります(後述)。サハラ砂漠の広大な土地であれば同じ現象が起こり得るのではないかと考え、思い立ったが吉日ということで行ってみました!そして貯金が空になりました。
サハラ砂漠で探してみた
ということでサハラ砂漠に探しに行って来ました。…結論から申しますと、野生ラクダには出逢えませんでした。でも、そんな消沈を吹き飛ばす砂漠の景色!そこはモロッコの南東部、メルズーガ大砂丘です。ここで画像の飼育されていたラクダに乗りました。
野生ラクダを探す方法は、今思えばとても単純で安直でした。人に聞いてまわる方法です。ホテルの受付や化石販売店の店主、バンのドライバーや軍人さんに「野生ラクダがどこにいるか知っていますか?」と聞いてみました。しかし答えはおおよそ「あー、知らない…。もしかしたらいるかもよ(笑)」という具合です。
メルズーガ方面へは、定番の現地発着ツアーで行きましたが中々自由な時間を作れず、その点後悔しました。ツアー参加者の方々と英語でお話しできたことは良かったなぁと思います。今後の英語学習のモチベーションになりそうです。
もし僕に沢山のお金があれば、長く現地に滞在して調べることが出来るのに、なんて…。サハラ砂漠はチュニジアや危険も伴いますがエジプト、アルジェリア、モーリタニア等からも行けます。しらみ潰しに探せば野生ラクダを発見できるかも知れません。
野生ラクダの分布
野生のラクダは現在、タクラマカン砂漠、ゴビ砂漠周辺に1500頭ほどといるだけです。もっともオーストラリアには元々人に飼育されていたラクダが野生化したものが100万頭以上生息しています。2020年の国連の調査によれば、人に飼育されているラクダは約3800万頭です。これはラクダの97%以上が家畜として飼われて、野生ラクダはオーストラリアのものを足しても全体の2.6%ほどしかいないことを示します。数字でみると本当に少ないですね。
ちなみにアフリカでは市場で当たり前のように売買されるラクダですが、日本では個人で飼育することができるのでしょうか?
…僕はラクダを飼っている人は今まで聞いたことがないのですが、馬を飼っている人はいるのでもしかしたら飼育できるかも知れませんね?
<参考文献>
今村薫編(2023)『ラクダ、苛烈な自然で人と生きる』、風響社。
この記事を以て、碩路としての活動は終わりになります。今までご協力いただいた皆さん、ありがとうございました!この記事の後日談として、エジプト編を書くことも考えていますが、あまり良い思い出ではないので、見送るかも、知れません。
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