アリスティータイム第三話

○アリスの家のダイニング

昼食を作るアリスを食卓の椅子に三角座りをして見つめている北神は不服そうな顔をしている

アリス「出来たぞ。冷めないうちに食え」

前に置かれた昼食へ視線を落として北神は眉間に皺を寄せて更に不服アピールをする
向かいの椅子へ座ったアリスは昼食を口に運んで、全く手をつけない北神へ問いかける

アリス「どうした? 美味いぞ? 早く食え」

北神は机を両手でバンッと叩いて椅子の上に立ち上がる

北神「美味いもクソもあるかっ! 毎日煎りクルミばかり食わせおって! ワシはリスじゃないんじゃぞ!?」

○回想

二週間毎食煎りクルミと水だけを出されているシーン

○回想終了

アリス「仕方ないだろ。現在、私は無職だ。茶葉や茶菓子の購入、それに加えて二人暮しとなって生活費も二倍。節制せねばいかんのだ」
北神「節制と言っても程があるじゃろ! 節制するなら茶葉と茶菓子を削れ!」
アリス「それは出来ん! ティータイムは私の生きる意味そのものだ。それにクルミはこの山で沢山採れて栄養豊富で無料だ」

北神を睨むアリス

アリス「文句を言わずに食え。泣かすぞ」

涙目になって椅子へ体育座りする北神

北神「……はい、すみません」

ボソボソと煎りクルミを食べ始める

北神「はぁ……たまには違う物が食べたいのぅ……」アリス「時にホクちゃんよ。そろそろ衣服を身に付ける事に慣れてきたか?」
北神「まだ若干の煩わしさはあるが問題はない」
アリス「それは良かった。ホクちゃんは可愛いから可愛い格好をしていないと勿体ないからな」
北神「服よりちゃんとしたご飯が欲しいのぅ……」

服を着せられた北神の姿は赤と黒を基調とした半袖でミニスカートのフリルワンピースに右は白と青の横縞、左は黄色と紫の縦縞というアシンメトリーのニーハイ。頭には赤のリボンカチューシャで履物は兎の形をしたスリッパ

北神「可愛いと言われるのは悪い気はせんが、どうにも納得のいかん事がある」
アリス「納得がいかん事とな? 言ってみろ」

○回想 町の風景と北神が服を着せられているシーン

北神(女の子として町へ降りて生活しろとアリスちゃんの家へ連れて来られ服を着せられたまでは良しとしよう)

○回想終了

○回想 アリスの家がある山奥を引きで見た景色

北神(だが、アリスちゃんの家も人里から離れているではないか。これでは元居た場所と変わらんぞ)

○回想終了

○アリスの家のダイニング

アリス「その事か」
北神「ワシに町へ降りろと言っておいてアリスちゃんは何故、人里離れた場所に住んでおるのじゃ?」

煎りクルミを食べ終えたアリスはハンカチで口を拭い、堂々と北神の問いに答える

アリス「まだレベルが足りていないのと、引っ越す金がないからだ!」
北神「金がないのは分からんでもないが……レベルって何じゃ?」
アリス「何もしていなくても神だの何だのと敬い慕われる存在だったホクちゃんには分からんだろうから、わかるように別のものに例えて教えてやろう」
北神「お、おぅ……。というか『だった』って……過去形なんじゃな……」

○アリスの想像の映像

アリス(町で普通に暮らしている一般常識を持ち合わせた者達を屈強な兵士とした場合、一般常識の知識に乏しい私とホクちゃんは産まれたての赤子同然だ)

○アリスの家のダイニング

北神「そ、そこまでか!?」

○アリスと北神のシンクロした想像映像

アリス「そんな私達がレベルを上げずに町で暮らした日には、三日も経たずして孤立し、一週間後に村八分にされて毎日石やゴミを投げつけられ、十日後にはストレスでハゲ散らかったところに追い討ちをかけるように家ごと燃やされて息絶えてしまうだろう」

○アリスの家のダイニング

北神「世の中がそこまで荒れていたとは……お、恐ろしいのぅ……」

北神の顔は青ざめ体が震える

アリス「そうならない為にも私達は引っ越す金を貯めつつ一般常識を身に付け、徐々に町へ慣れる訓練をせねばならない」
北神「く、訓練?」
アリス「まずは第一段階である可愛い服を纏う事への慣れ。人というのはまず見た目から入るものだ。可愛い服を着る習慣をつけておけば、外へ変な格好で出て行ってしまう事態を防げる」
北神「それでワシに服の着慣れ具合を聞いたのか」
アリス「そうだ。ホクちゃんの着慣れ具合だと次の段階へ移っても良いかも知れん」
北神「次の段階じゃと!? それは一体……」
アリス「町での買い物だ」
北神「町での買い物じゃと!? それはレベルが高過ぎんか!?」

椅子から立ち上がったアリスはクスリと笑って良い顔をする

アリス「私も一緒に行くから安心しろ。ホクちゃんを一人にはせんよ。死ぬ時は一緒だ」
北神「アリスちゃん……」

椅子から立ち上がった北神はアリスのもとへと行き、抱きついて感動の涙を流す

アリス「よしよし。では明日、町へ繰り出すぞ」
北神「うむ!」

体を離したアリスは予定を伝える

アリス「明日に備えてこの後、夕食のクルミ拾いをし、十八時夕食、二十時就寝、翌七時起床とする。良いか? ホクちゃん」

敬礼をするアリス

北神「了解ですじゃ! アリスちゃん!」

北神は背筋をピンと伸ばして敬礼を返した

○アリスの家寝室

翌朝七時。アリス起床
同じベッドでクマのぬいぐるみを抱いて涎を垂らして気持ち良さそうに寝ている北神の顔を覗いてクスリと笑うアリス

アリス「ふふ。ホクちゃん、朝だぞ」

北神の額にデコピンをする
バチンッと音が鳴り、北神が仰け反る

北神「ふぎゃあああっ!」

目を覚まし半身を起こして腫れ上がった額を押さえて涙目でキョロキョロする北神

北神「何じゃ!? 物凄い痛みがワシのおでこに!」

不思議そうな顔をするアリス

アリス「ちょっとデコピンしただけで大袈裟だな」
北神「お主の仕業か! おでこがなくなったかと思ったわ!」
アリス「そんなにか……すまん。寝顔が可愛かったからついイタズラをしたくなってしまったのだ。許せ」

プイッとそっぽを向く北神

北神「嫌じゃ!」
アリス「なら、町でホクちゃんの気に入ったぬいぐるみを一つ買ってやる。これでどうだ?」

そっぽを向いていた北神がチラッとアリスを見る

北神「高いやつでも良いのか?」
アリス「ああ。ちょっとしたイタズラとはいえ、私に非があるから仕方がない」

泣き止んで満面の笑みで喜ぶ北神

北神「わぁーい! じゃあ、許す」

○アリスの家洗面所

機嫌が直った北神はアリスと洗面所へ向かい我先にと顔を洗う
ゆっくりと顔を洗っていたアリスの服の裾を引っ張って急かす

○アリスの家キッチン

朝食の準備をするアリスの周りをウロウロする北神

北神「ご飯はまだか? なんなら、町でご飯を食べるとかどうじゃ?」
アリス「今、作るから大人しく待っていろ。それに町で食事はせん」

○回想 サムサム町の飲食店内

北神(なんでじゃ? 町の娘らはよく朝ご飯をカフェで食べておったぞ?)

○回想終了

○アリスの家キッチン

フライパンで調理を始めるアリス

アリス「町の娘達と私達を一緒にするな。私達はまだカフェで食事をとれるレベルに達していない。アレは超上級者向けだ」
北神「ちょ、超上級者……」
アリス「分かっていないようだから教えてやる。外食と言うのは買い物より遥かに難易度が高いのだ」

○回想 場末の酒場

アリス(今の私達のレベルでは精々、むさ苦しい男まみれの場末の酒場が限界だ)
北神(場末の酒場……)

○回想終了
○アリスの家キッチン

北神「もし、今のワシらがカフェで食事をとろうとしたらどうなるのじゃ?」
アリス「持っている空気感の違いで跡形もなく消滅するぞ」

ゴクリと唾を飲んで冷や汗を垂らして震える北神

北神「お、恐ろしい。ワシが神域に篭っている間に何とも怖い世の中になったもんじゃ。アリスちゃんに教えて貰わなかったら、町へ降りた時にうっかりカフェで消滅するとこじゃった」

○アリスの家ダイニング

出来上がった朝食の皿をテーブルへ置くアリス

アリス「出来たぞ。冷めないうちに食べよう」

置かれた皿には煎りクルミとこんがり焼けたベーコンが二枚
皿に乗っている物を見て目を輝かせる北神

北神「おおっ! 肉じゃ! 今日は何かの祝い事か!?」

食事を始めるアリス

アリス「今日の買い物は危険を伴う。途中でエネルギー不足になったら困るからな」
北神「お、おぅ……そんなに買い物が危ないとは……。ともあれ、久々の肉じゃ。味わって食わねば」

北神は一枚目のベーコンを頬張って蕩けた顔をする

北神「はふぅ」

最後に残ったベーコンを噛まずに頬の内側へハムスターみたいに収納する北神

○アリスの家洗面所

アリスは片方の頬をベーコンで膨らませた北神を連れて洗面所へ行き歯を磨く

アリス「何をしている。ホクちゃんも歯を磨け」

そっぽを向く北神

北神「嫌じゃ」

アリス「ちゃんと歯磨きしないと虫歯になるぞ?」

逆の方へプイッと向く北神

北神「虫歯も嫌じゃ」
アリス「なら、歯を磨け」

更に逆へ顔を向ける北神

北神「それも嫌じゃ。ワシはまだ肉と別れたくないのじゃ」
アリス「はぁ……では、お出かけ用の歯磨きセットを持っていくから、肉と別れたらすぐに歯を磨くのだぞ?」
北神「うむ!」

○アリスの家寝室

部屋着のTシャツを脱ぎ捨てた北神は全裸でアリスが服を着せてくれるのをソワソワして待つ。

北神「アリスちゃん、早く服を着せてくれ!」
北神「急いで買いに行かないとぬいぐるみが逃げてしまう!」

○回想 クマのぬいぐるみが去って行く想像

ぬいぐるみ「バイバイ、ホクちゃん」
北神「待ってくれー!」

○回想終了

○アリスの家寝室

アリス「そんなに急くな。のんびり出ても店が開く前に着く」
北神「それでもなるべく早く行きたいのじゃ!」
アリス「はいはい。わかったから、バンザイしてジッとしていろ。動いていては着せ難くて仕方ない」

バンザイをする北神

北神「はーい……」

着替えが終わり、トランクケースを持つアリス

○アリスの家の前

着替えたアリスと北神が歩き始める

アリス「では、行こうか」
北神「うむ! 出発じゃ!」

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