見出し画像

山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第113回 闘いマインド全開バトルソング特集


むかし、栄養ドリンクのコマーシャルで『24時間、たたかえますか』というキャッチコピーがありました。

“ブラック企業的な精神論を是とする前時代的なコトバだ!”と誹りを受けそうなこのコピーですが、僕はこのコピーがけっこう好きであります。

かつてアナキストの大杉栄が『生は永久の闘いである。 自然との闘い、社会との闘い、他との闘い、永久に解決のない闘いである。 闘え。闘いは生の花である。』と言ったように、生きるというのは、それすなわち闘いです。

闘いというのは何も、プラカードを掲げて街を歩くとか、破廉恥極まる卑劣漢と取っ組み合うとか、そういうことだけではありません。

目の前の酒を飲むか飲まないか、クラスの気になる女の子に声をかけるかかけないか、そういうところから闘いは始まっています。

闘いとはつまり、人生の可能性を狭め、己を卑小な存在だと思わせようとする力に対して、背筋を伸ばしてノーと言うこと。

もしくは自分の残りの人生を決定づけるある瞬間に、勇敢で無謀な神々を解き放ちイエスと答えること。

大切なのは敵がどこにいるのかを知ることです。

思いきり人生を呼吸するために、とびきり納得の行く生き方をするために、私たちは闘わなくてはならない。

そして闘うために必要なのは、なんといっても音楽です。

脳細胞を全開放し、血液を沸騰させ、バイブスのエンジンをフルスピードにするために音楽を聴くのです。可能な限りの大音量で。

音楽はパコンと状況を変えます。

音楽さえ鳴ってしまえば、もはやゲームはこっちのもの。

というワケで、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第113回は、“闘いマインド全開バトルソング特集”と題して、闘いマインドを奮い立たせてくれるアンセムを紹介します。

みんな、ついてきてね!



一曲めは、ブラザーズで『ゴー・フォー・イット』。

ブラザーズなる、総勢10名の米国のファンク・バンドがリリースした唯一のシングルであります。

1987年作。

バンド名といい楽曲名といい、なんとも検索泣かせなネーミング・センスですが、実際検索してみても殆ど何もわかりませんでした。discogsのページがヒットするだけ。

なんともマッチョでスリリングな、血湧き肉躍る祝祭のラテン・ブギー。

ダサくて熱くて泣けまくる。

サビで繰り返される『GO FOR IT!』のコーラスと、やたらテンションの高いオルガン、血管ブチ切れ臨界突破のサックス・ソロは思わず拳を突き上げること請け合い。

これぞまさしく闘いです。

闘いすぎです。



二曲めは、ジェームス・ブラッド・ウルマーで『ブラック・ロック』。

オーネット・コールマンが提唱した、音楽理論というよりはむしろカルト哲学〜宗教書としてカテゴライズされる“ハーモロディクス理論”を体得(!)したギタリスト、ジェームス・ブラッド・ウルマーの代表作であります。

のちにスクリーミング・ヘッドレス・トーソズに受け継がれることとなる、支離滅裂でドシャメシャなPUNK寸前のFUNK、ブチ切れまくりな破綻寸前のグルーヴをこれでもか! と炸裂させています。

糖質と脂質と化学調味料が悪魔合体した、アホほど味が濃くて胃もたれするんだけど、たまに無性に喰いたくなるトンコツ・ラーメンのような、エグくて笑える強烈さがあります。

とにかくアジテートの強度が凄い。



三曲めは、スカイ・キングで『シークレット・ソース』。

ジャケかっけー(笑)。

バンド名もまじかっけー(笑)。

『テイク・ファイヴ』で知られる変拍子ジャズの王者、デイヴ・ブルーベックの息子、クリス・ブルーベックが率いていたファンク・ジャズ・ロック・バンドでございます。

初期レッチリに通ずるような、圧倒的なブチ飛ばし&ブチ壊れ感。

ピーター・“マッドキャット”・ルースによる異様なテンションのハーモニカも最&高。

これぞナイス・グルーヴであります。

闘いマインドを嫌が応にも高めてくれる名曲です。

この曲が収められているアルバムでは、クリス・ブルーベックはほとんどの作詞/作曲を手がけている他、ヴォーカル、ベース、鍵盤、トロンボーンと八面六臂の活躍を見せております。

なんと当時若干23歳、大変な才人ですね。



四曲めは、小林ひさしで『俺節』。

『編集王』、『同じ月を見ている』、『ギラギラ』など数々のヒットを飛ばしながら、アルコールに依存し、43歳にして肝硬変で亡くなった無頼の天才漫画家・土田世紀の傑作演歌マンガ『俺節』から生まれた一曲。

東北訛りがキツくてアガり症でみんなにバカにされてるけど、実は素晴らしい歌の才能を持った主人公が、演歌歌手になるべく高校を中退して上京するというマンガなんですけども、その主人公のデヴュー曲が実際に制作され、CDリリースされたっちゅー格好です。

まぁ今様に言うと『メディア・ミックス』ですよね。

で、これ凄いのが、作曲/プロデュースがなんと北島三郎です。

作詞・作曲を行う際のペンネーム『原譲二』の名前で手がけています。

北島三郎はこの企画のみならず、『俺節』の題字まで書いており、さらには完全にモデルになったと思われる“北野波平”なるキャラクターまで登場してるんで、取材協力なんかもしてたんではなかろか? と思われるほど、この作品とガッツリコラボしてます。

(そういや北島三郎は洋楽はジェームス・ブラウンとスライ&ザ・ファミリー・ストーンしか聴かないってウワサを聞いたコトあるんですけど本当なんですかね? 一周まわって納得いきすぎるんですけど。情報モトム)

そして編曲は、カルトGS『アウトキャスト』のメンバーであり、ニュー・ロックの立役者であり、70〜80年代の歌謡史にその名を残す編曲家、水谷公生

作詞は言わずもがな、『俺節』の作者である土田世紀。連載当時、まだ20代前半という若さにも関わらず、孤独で不器用な男の生き様を実に渋く書ききっています。

この強力な布陣で制作された『俺節』は見事ヒットを飛ばし、歌唱を担当した小林ひさしはゴールデン・アロー賞の新人賞部門を獲得しました。

えー、これは大変な名曲です。

我らのバトル・アンセムです。

“無口でいいさ 夢がある

頭三べん 下げたなら

五回笑って 元を取る

ああ 行く道行くぜ”

という、演歌史のクラシックたちにもひけを取らぬであろう稀代のパンチ・ラインを、僕は死ぬまで口ずさみ続けるでしょう。

最後に、僕がこのマンガでもっとも好きなシーンを引用して終わろうと思います。

主人公はおばあちゃんに買ってもらった背広を年がら年中着ているんですが、あるときヤクザに因縁をふっかけられ、ボコボコにされた挙句、その背広にツバを吐きかけられてしまう……というシーンです。

そこでそれまでやられるがままだった主人公は激昂します。

ヤクザの足元にすがりつき、その手を匕首で滅多刺しにされてもなお離すことなく、血と涙と鼻水でグチャグチャになった顔でこう言うのです。

『……まれ……

あや……まれ……

婆ちゃんの背広……に謝まれ………

オラァ……

背広に故郷(くに)しょってるんだ……

離さいねべしゃ!!

二度と婆ちゃんさ顔合わせらんねべしゃ!!

謝まれっ!!

嫌んだば殺せえ!!』


……これです。

これこそまさしく“闘い”です。

闘っていきましょう。

少なくとも我々には、その権利がある。

誰にも歌えぬ俺の俺節を貫いていきましょう。

選ばされるのではなく、選ぶのです。

踊らされるのではなく、踊るのです。

全部なくしてもいい覚悟を決めたときこそ、ヒトは本当に欲しかったものを見つけるのです。

耳をすますんだ。

毎日、毎時、毎分、毎秒、ゴングが鳴り響いてるぜ。


ハイ、というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第113回 闘いマインド全開バトルソング特集、そろそろお別れのお時間となりました。

次回もよろしくお願いします。

お相手は山塚りきまるでした。


愛してるぜベイべーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!











この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?