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山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第105回 あんまり知られてないファーストアルバム特集


よく『処女作にはそのアーティストの全てが詰まっている』などと言われるけれども本当だろうか。

そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。

フランク・ザッパの処女作は『フリーク・アウト!』だが、彼の生涯において変わることのなかった実験精神がすでに如実に表れているし、カニエ・ウェストの『カレッジ・ドロップアウト』ではいかに世間から批判されようが常に新しいことに挑戦する彼のクリエイティヴィティが表れている。

その一方、ハービー・ハンコックは『テイキン・オフ』は全曲がオリジナル曲という当時のジャズ・シーンにおいてかなり稀なアルバムでデヴューし、その後もファンクやヒップホップ、ニュー・チャプター・ジャズといった時代の最先端の音楽に己をアップデートしているし(だからアティチュードの面でいえば変化していないのかもしれない)、グレアム・レベルは『インフォメーション・オーヴァーロード・ユニット』では退廃的でネガティヴなノイズを垂れ流していたが、メンバー・チェンジを境に急激にポップな方向へ舵を切り、今ではアーノルド・シュワルツェネッガーやレオナルド・ディカプリオといったハリウッドのビッグ・ネームたちの映画音楽を作る大家となっている。

だから実際のところ、そうであるかどうかはわからない。こじつけようとすればいくらでもこじつけられるし、無視しようとすればいくらでも無視できるからだ。人間は変化する生き物だ。成長も退行もするし、改宗も転向もする。

しかし、作家でも映画監督でもミュージシャンでもそうだが、活動期間があまりに短かったり、路線変更した結果ヒットを飛ばしたアーティストの“活動初期”というのは、多くの場合ファンにしか知られることがない。だからこそ『えっ、あの人むかしこんなことやってたんだ!』とか『このひと昔っからこういう芸風だったんだなぁ』という新鮮な驚きを得たときの感動というのは、何にも変えがたいものがある。

というワケで山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第105回は、“あんまり知られてないファーストアルバム特集”と題して、誰もが知っている有名アーティストの意外なファーストアルバムについて取り上げていこうと思う。


一曲めは、ティラノザウルス・レックスで『チャイルド・スター』。

T-REXというと、多くの方は『20センチュリー・ボーイ』とか、『ゲット・イット・オン』のようなグラマラスなエレクトリック・ブギーを連想するかと思われるだろうが、初期はT-REXという名前ではなく、ティラノザウルス・レックスという名前で、スティーブ・ペレグリン・トゥックというパーカッショニストと二人だけで、中東風の音階とケルト音楽的なリズムを融合させたかなり独特のアシッド・フォークをやっていた。

一聴するだに『売れなさそう』と思うサウンドだが、当時のサイケデリック・ブームに乗ってこのアルバムはUKチャート15位という結構なヒットを飛ばした。



二曲めは、マドンナで『ホリデイ』。

800万枚以上を売り上げたマドンナのこのアルバムを“あんまり知られてない”というのは無理があるのだが、乱暴に取り上げてしまうことにする。

その時代のダンス・ミュージックの最先端の動向をつぶさに観察し、自作に取り入れ続けてきている(未だにクラブとかめちゃくちゃ行くらしい)マドンナのファーストがどのようなものだったかというと、1983年水準の最先端のダンス・ミュージックである。

ヴェイパーウェイヴが隆盛をきわめ、シティ・ポップ〜AORが再興し、80年代リヴァイヴァルの完全な定着が整った現代の観点からすると、このサウンドはまさに再評価されるべきではないだろうかと筆者は思う。




三曲めは、ウェイリング・ウェイラーズで『アイ・ニード・ユー』。

耳馴染みのない方もいらっしゃると思われるが、ウェイリング・ウェイラーズは、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの前身バンド、というより前身コーラス・グループである。

ジャマイカはわずか数年の間に主流の音楽がスカ〜ロックステディ〜レゲエに変化したという激動の音楽史を持っているが、このアルバムがリリースされた際はまだ主流の音楽はスカだった。

ボブ・マーリーも我々がよく知るあのドレッド・ヘアではなく、坊主刈りだった(ザ・ウェイラーズとして活動していくことになったとき、ラスタファリニズムに入信してドレッドロックスにしたのである)。バックを務めているのは当時ジャマイカで一番人気があったと言われるスカ・バンド、スカタライツ。

ボブ・マーリーは青々しい若さに満ちているが、その独特の声質のヴォーカルからはのちのクリズマの片鱗が感じ取れる。




四曲めは、アース・ウィンド&ファイヤーで『バッド・チューン』。

ポップなファンクやディスコ・ナンバーのイメージが強いバンドだが、そのファーストたるやチャラさ皆無の激渋JAZZYサウンドである。

のちにあまりに演奏が正確すぎるので打ち込みなのではないかと疑われるほどの高い演奏力はここでは見られず、むしろ同時代のファンク・バンドと比較すると下手な部類に属するのだけれども、その下手さがむしろ生々しさを醸し出していて良い。すげえリアル。楽曲も洗練されていなくて荒削りな印象が強いのだけど、それがむしろスピリチュアル・テイストを感じさせる代物になっている。

発展途上、未完成の感はあるが、決して青くはない。黒い。

ちなみにこのファーストは1971年リリースだが、アースは1971年に公開されたブラックスプロイテーション・ムーヴィーの元祖にしてとんでもない怪作『スウィート・スウィート・バック(とにかくチンポのデカいアフロ・アメリカンがそのチンポのデカさを武器に白人警官からひたすら逃げまくるだけの映画)』のサントラも手がけているため、ひょっとしたらタッチの差でこっちの方が早かった可能性がある。

ストリート感に溢れた黒汁溢れるジャズ・ファンクで、こっちも激カッコいい。映画と併せて必聴。




というワケでいかがだっただろうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第105回、あんまり知られてないファーストアルバム特集、そろそろお別れの時間と相成った。次回もどうぞよろしく。


愛してるぜベイベーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!


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