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音楽宗教団体 ya ho wha 13のこと

ya ho wha 13をご存知だろうか?

60年代末からアメリカ西海岸で活動していた宗教団体で、菜食主義/動物愛護/ラヴ&ピースを訴えるという、いかにもなヒッピーイズム&ニューエイジ思想をもった集団なのだが、なんといっても特筆すべき点は“音楽活動をやっていた”というところである。

『音楽こそ世界統一言語である』という思想を持っていた彼らは、コミューンで共同生活をしながら、完全自主制作でレコードを作っていたのだ。

毎朝3時から6時まで全員で瞑想したのち、ガレージで即興演奏を行い、それをレコードにして教団が経営するヴィーガン食堂で売っていたという。

ちなみにこのヴィーガン食堂は、アメリカ初の完全菜食レストランであり、ジョン・レノンやマーロン・ブランドも常連だったという。結構な人気店であったらしく、地域の自治体に対する影響力も強かったそうだ。

教祖はファーザー・ヨッド、本名ジェームズ・エドワード・ベイカー。

第二次世界大戦当時は海軍に所属し、なんと銀星章(シルバー・スター)を授与している。これは“敵対する武装勢力との交戦において勇敢さを示した”ものに贈られる勲章なのだが、ほかにこれを授与した著名人として、2008年の米大統領選でオバマと争ったジョン・マケイン、映画『アメリカン・スナイパー』のモデルになったクリス・カイルなどがいる。

またベイカーはこのころ柔術もマスターしたそうだ。柔術はもともと日本の古武道であり、ただ相手に勝てばいいというのではなく精神性も重視するというその理念には禅や仏教思想もインクルードされているのだが、この経験がベイカーにどのような影響を与えたのかは解らない。

戦後、ベイカーはカリフォルニアに移住し、スタントマンを志す。戦争で活躍した軍人が除隊後にスタントマンになる。というのは当時よくあった話で、たとえばクエンティン・タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブラッド・ピットのモデルになったハル・ニーダムなどは朝鮮戦争でたいそうな武勲をあげたという。日本では『西部警察』シリーズで数々のカースタントをこなした三石千尋などが有名だ。

しかしベイカーは、50年代のカウンターカルチャーの最先端であったビートニクの影響を受け、菜食主義や動物愛護、ラヴ&ピースといった思想に傾倒するようになる。やがてベイカーはインド哲学やスピリチュアリズムを学び始め、クンダリーニヨガの創設者であるヨギ・バジャンに出会う。

クンダリーニヨガとはチャクラを開いてクンダリーニ(普段は眠っている未知のエネルギー)を覚醒させるもので、いまヨガと呼ばれているものはだいたい、このクンダリーニヨガを行うための準備運動的なものであるらしい。しかしベイカーは60年代後半よりオカルトや西洋魔術に興味を示すようになり、クンダリーニヨガを世界に普及させんとするヨギ・バジャンと袂を別つこととなる。

そうしていつしかベイカー改めファーザー・ヨッドのもとには支持者が続々と集まり、やがて共同生活をしながら音楽活動を行う宗教団体『ya ho wha 13』になっていったそうだ。ファーザー・ヨッドは13という数字にこだわっていたらしく、教団内には13人の妻がいたそうな。また教団内にはミュージシャンも多かったらしく、60年代後半に一世を風靡したガレージサイケバンド、ザ・シーズのヴォーカル&ベースのスカイ・サクソンも73年頃より在籍していたとか。

1974年末、ファーザー・ヨッドはハワイに移住するが、1975年に事件が起こる。ファーザー・ヨッドがLSDを服用した状態でハンググライダーに初挑戦し、着地に失敗して亡くなってしまったのである。この死亡事故によって教団の活動はかなり沈静化し、60数枚あったという自主制作レコードの大部分は焼却されてしまったのだが(地球の波動が悪化したことが原因であるという)、残された信者たちは音楽活動をつづけた。なんと2010年にも新作をリリースしており、教団自体はいまも存続しているものと思われる。

60〜70年代の作品群はマスターテープも焼却されてしまったため、再発は不可能と思われていたが、90年代に日本のレーベル・キャプテントリップレコーズが盤起こしを行い、世界初のボックスセットを販売した。このセットのリリース直後、信者から大量の注文FAXが届いたそうだが、宛名はすべて“ファーザー・ヨッド”となっており、『ファーザー・ヨッドに会った。ボックスを貰えと言われた。』と書いてあったのだそーだ。

ちなみに2012年にはドキュメンタリー映画も制作されています。





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