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ヤバい歯医者に行った話

年末の話なんですけど、歯医者行ったんですよ。

銀歯が取れちゃってずっと放置してたんですけど、さすがにそろそろ行かないとマズいよなぁ〜って思って、行くことにしたんです。

でもおれ、四月に上京して以来、歯医者とか行ってなかったんで、どこがいいとか全然知らないから、ネットで色々調べてたのね。で、そのときふと思ったんです、

“どうせならめちゃくちゃ評判悪い歯医者に行ってみよう”と。

今日び、本当に最悪な店とか施設なんてほとんどないじゃないですか、悪い言い方をすればすべて『それなり』じゃないですか。で、『それなり』に感動などないワケで、感動を求めようと思ったら高いお金を出してグレードの高いところに行くしかないんですけれども、おれはもう丸二年まともに働いていないのでとうてい上は望めないワケです、だったらトコトン下を狙うしかねえっていう魂胆ですよね。

それでネットの口コミ漁って、近場の歯医者でいっちばん評価低いところを探したら、『日本語が通じませんでした!二度と行きません!』とか『絶対行かないほうがいいです!』とか不穏なレビューが並ぶ、星二つの歯医者を見つけたんですよ。ミシュランなら星二つってメチャクチャ良いですけど、ネットレビューの星二つって大体マジでヤバいじゃないですか、もうおれ、“これっきゃねえ!”と思って速攻予約して、その翌日に行ったんですね。

で、その歯医者、某駅からほど近いビルの二階にあるんですけど、もう階段昇ってる時点でクソヤバいワケ。なんか風俗のチラシとか貼ってあるんですよ。うわこりゃとんでもないトコに足踏み入れちゃったかもなってドキドキしながら扉開けたら、待合室のソファでロン毛のババアがふんぞり返ってTV観てたんです。何だろう、似てるタレントでいうなら羅生門で死体の髪抜いてる老婆って感じの、もう見るからにヤバいバイブスを放ちまくっているババア。で、そのババアがこっちを振り向いて言ったんです、

『あら、いらっしゃい』

って。

そのババア、受付だったんですよ。受付なのに持ち場のカウンターを離れてソファにふんぞり返って『とくダネ』観てたんです。うぅわやっぱ星二つはダテじゃねーなって思いながら、そのババアに保険証出して、問診票記入したんですよ。『どうせなら銀歯くっつけるだけじゃなくて、悪いとこあったら全部治してもらおう』と思って、その旨を記入したりなんかして。

で、治療室?に通されたんですけど、その中ももう凄いワケ、なんかアイドルとか女優のポスターが壁中に死ぬほど貼ってあるの。広瀬すずのポスターとか十二枚ぐらい貼ってあったもん。おれあんなに大量の広瀬すずいっぺんに見たことないですよ。しかもあちこちにAmazonの段ボールが積んであるし、奥の詰所みたいなとこにはヤカンとか置いてあってなんかそこでラーメンとか作ってんの。

ほいで、マジでハンパじゃねえなって思いつつ、ババアに促されるまま施術用のベッドに寝たんですけど、歯医者のベッドってあのー、左側に口ゆすぐ洗面台みたいなのくっついてるじゃないですか、そこにネピアの箱ティッシュが冗談抜きで50個ぐらい積んであるんですよ。もうなんか軽くピラミッドみたいになってるワケ。もう一番上のティッシュ取ろうとしたらマジで背伸びしないと届かないんじゃねーかってぐらいの標高ですよ。マジで星二つはダテじゃねえって思いながらベッドに寝て、で、そのまま30分ぐらい待たされたの。待てど暮らせど全然医者がやってこないワケ。前掛けつけたまま永遠に放置ですよ。だったら待合室で待たせてくれやって話じゃないですか。バンドのライブ行って一曲目始まるまえに延々とチューニング見せられたらたまんないじゃないですか。しかも受付のババアはまたぞろソファにふんぞり返って、なんかゲラゲラ笑ってるワケ。いや平日午前のワイドショーでそんな笑う箇所ないだろっていうぐらい、一人で爆笑の渦に巻き込まれてるワケ。もうおれ、どうしていいか分からなくなっちゃって、迷子になったみたいな気分で、ずっと待ってたんですけど。

そしてようやく、ついに、満を辞して歯医者が登場したんですけど、もう受付のババアを遥かに上回る物凄い風貌なワケ。むかしのシカゴブルースのハーモニカ奏者でサニーボーイ・ウィリアムソン二世っていう人がいるんですけど、マジで超ソックリなの。なんか鼻毛とかも死ぬほど出てるし。


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この人ね。

で、歯医者って一番初めに全部の歯の状態をチェックするじゃないですか、C-1、C-2とかいって。で、ひとしきりチェックしたあとに、その歯医者がおれの顔をじっと見て、

『……で、どこが悪いの?』

って言ってきたんですよ。

ヤバいじゃないですか、全然ヤバいじゃないですか。

まず今のチェック何だったんだって話だし、そもそもおれ問診票にどこが悪いかちゃんと書いてたのに。もう明らかに“ほう・れん・そう”が出来てないワケ。おれが困惑しながら、『いや…あの…銀歯が取れちゃったんで、くっつけて欲しいんですけど』って言って取れた銀歯出すと、無言でそれを受け取って、そのままシームレスに手術に突入したんですね。

まぁもうどんな仕打ちに遭おうが構わない、歯さえ治ればそれでいい、曲がりなりにもプロなのだからそこはちゃんとしてくれるだろうって思ってたら、その歯医者がフツーに銀歯落として、おれマジでその銀歯飲み込みかけてリアルに死にそうになったんですよ。もうその辺とかも全然ヤバいんですよ。まぁそれでなんとか無事手術も成功して、『はい。それじゃ今日で終わりね』とか言うから、『あ、問診票に“悪い歯は全部治してほしい”って書いたのにこれで終わりってことは、他に悪い歯とかなかったんだ』と思って、『ほかに虫歯とかなかった感じですか?』って聞いたら、その偽サニーボーイ二世がもう吐き捨てるような口調で、

『いや、見てないよ。たぶん大丈夫じゃない? 見てないけど』

って答えたんですよ。問診票にちゃんと書いたのに。もう全然、“ほう・れん・そう”が出来てないんです。もう何のための問診票なの? って話ですよ。まぁそれで受付に戻って会計済ませたら、ババアが、

『はい、次回の予約いつにする?』

って聞いてきたんですよ。さっきこれで終わりって言われたのに。もう全く、“ほう・れん・そう”が出来てないんですよ。チームワーク皆無なワケ。で、おれが戸惑いながら、『いや…あの…これで終わりって言われたんですけど…』って答えたら、

『あ、そう。じゃ、終わりで』

って平然と言われて。“じゃ”ってなんだよ、“じゃ”って話じゃないですか。まぁそれで、外に出て、青空の下、まぶしい太陽に目を細めながら『二度と来るか』って思ったっていう話なんですけどね。あれネットレビューで星二つになってましたけど、やっぱネットっていうのは嘘ばっかですね、あれ星二つは過大評価もいいところです。よくてマイナス八です。






※この文章は全てフィクションです。実在の人物や団体などとは一切、100パー、絶対、神に誓って関係ありません。

※おれは無宗教です。

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