上手くやろうとするな、一生懸命やれ
「上手くやろうとするな、一生懸命やれ。」
これは、私がまだ新社会人の頃に父親に言われた言葉です。
ここで私の父親のことを少しお話します。
私のおやじはすでに亡くなっています。
おふくろは健在です。
私のおやじは元刑事でした。
強盗殺人事件なども携わっていたので、おそらく捜査一課に所属していたのでしょう。
かなり腕利きの刑事だったようで、実家には警察時代の表彰状がかなりの数あります。
その中には検挙率1位の立派な表彰状もあり、当時の表彰記念写真も残っています。
写真の中のおやじは、どこか誇らしげで、りりしくもありかっこよかった。
しかし、子供の頃の私はおやじが嫌いでした。
すぐに怒るし、おふくろにも私にも厳しかったからです。
友達の優しそうな父親を見ると羨ましくなる時もありました。
がんこで亭主関白で、曲がったことが嫌いでした。
しかし、おふくろもなかなか気の強い女で、よく夫婦喧嘩になりました。
おふくろは私を可愛がってくれましたが、おやじはそれが甘やかしだとよくおふくろに言っていました。
そんなおやじですが、身内や近所で何かもめ事があった時に、おやじが出ると不思議に事が収まるのを何度か見ている内に、問題を大局的に見る力や相手の気持ちの落としどころを見極める力に感心していました。
おやじには独特の雰囲気があり、本物の修羅場をくぐってきた男のたたずまいのようなものがありました。
私が、社会に出た時に、「上手く行かない…。」と少し泣き言を言ってしまった時に、冒頭の言葉をおやじが私に言いました。
「上手くやろうとするな、一生懸命やれ。」
ところが、当時の私にはあまりこの言葉は響きませんでした。
「一生懸命やってるよ。だから、上手くやらなきゃいけないんだって…。」と納得していませんでした。
しかし、営業の仕事に就いてから、ある時このオヤジの言葉がフッと頭に浮かんできたことがありました。
それは、クレーム処理で客宅に向かう車の中でした。
クレーム処理では、相手の言い分をまず全部吐き出してもらうことが先決です。
吐き出した時点で、半分は相手の気持ちが収まっているものです。
最初から、「上手くしのいでやろう」といういやらしい気持ちが出ると、それが相手に伝わってしまい、誠意のない会社という印象を持たれてしまいます。
クレーム処理の冒頭は「忘我」が基本です。
相手の身になり全部受ける覚悟が必要です。
その覚悟が自分の顔に出て相手に伝わり、お客様の溜飲が下がってくるのです。
その後に、こちらの立場を踏まえた事情説明をしていきます。
順番を間違えないように注意しなければいけません。
「上手くやろうとするな、一生懸命にやれ。」
クレーム処理では、肚にストンと落ちた言葉でした。
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