小堀進の「霞ヶ浦」1957

小堀進は優れた水彩画家である。その筆さばきは、常にスピード感と力強さ、または軽快感と爽快さを持っている。殆んどためらいを感じさせない大胆な筆遣いは、作品を鑑賞する者にいつも新鮮な感嘆の感情を呼び起こす。

小堀が描いた「霞ヶ浦」と題された作品は複数あるが、"雨柱"または"雨脚"と言われる気象現象（上掲写真を参照されたい）のモティーフを画面空間に投げ入れた1957年の作品が特に面白い。

この雨柱、または雨脚というのは、稀に見られる気象現象を示す言葉であるが、この現象を実際の風景の中で見たことがある人なら、小堀がここで描いているのがまさに雨柱なのだということがよく分かるであろう。

小堀は気象学者のように多様に変化する雲の姿を画家の眼で細く観察していたのではなかろうか。その作品には実際の観察に基づく面白い雲の形や、他の画家があまり描かないような珍しい雲の形がしばしば登場する。決して頭の中だけで想像して描いているのではない。

「霞ヶ浦」の画面中央下部やや右側のグレーの雲から柱のように垂直に掃かれている筆跡が見える。これが遠方に見える雨柱だ。また、画面左方でも垂直方向に刷毛を走らせているようにも見えるのも、より近景に見える雨脚の表現だろう。

画面中央上方には白く光る雲に青空がぽっかり現れており、画面を支配する大きく横に力強く流れるグレーの雲と劇的な対比を見せている。雨柱が見えるような気象は瞬時に変化するのだ。

大空の雲と光の変化こそ、小堀が常に見ていた芸術上の主要な舞台空間だ。

（著作権法の関係でこの作品の画像を示せないが、これはこの画家の代表的な作品でもあるので、ネット上で画像検索すれば容易に出てくるだろう。）

残念ながらこの作品は、小堀の水彩画を多数所蔵する茨城県近代美術館のコレクションには、含まれていない。所有者が手放さなかったのかもしれないが、私に作品を選ぶ権利があったなら、何としても選びたい作品の一点だ。