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関西弁への幻想 その2

メディアやSNSの影響もあり、よく使われる関西弁や、関西でしか意味の通じない言葉はだいたい飽和している。
「マクド」を筆頭として、「なおす」を「片付ける」の意味で使うなど、もうどこかで聞いたことのある言葉ばかりではないだろうか。だが、それは方言を矯正する必要が無いという地方民が受ける恩恵でもある。
関西を離れて東北へ向かうにあたり、私もそのあたりは心得ていたので、コミュニケーションに困ることは無いだろうと高を括っていた。

だが、ミスコミュニケーションは東北入り初日に起きた。

大学の入学前オリエンテーションなるものに参加した新入生は早速構内で友達作りに勤しんでいた。私も例に漏れずその辺にいた学生に声をかけたりして友達の輪を広げていた。
もし今、知り合いゼロの空間に放り込まれたら死んだ目でスマホをいじくるしかないのだが、さすが大学新入生、誰もが臆することなくお喋りに興じていた。あのころのエナジーが懐かしいと感じるおっさんになったものだ。

私はその輪で唯一の関西出身者だった。みな一様に「おおっ!」というリアクションを示し、心の中でガッツポーズをした。やはり定番の
「お好み焼きと白ご飯一緒に食べるってマジ?」
とか
「マクドって言ってみて!」
とかいう質問が繰り出され、「はーん、予想通り!」という定期テストで範囲がそのまま出題された時のような気持ちになっていた。中には
「なんかおもしろい事言ってよ!」
という殴りたくなる要望をのたまう輩もいたが、まあそれぐらいは許そう。
話の流れでゲーム的なものをすることになり、その音頭は声がでかいことで有名な関西人(私)が務めた。
「最初はグー!」
皆意気揚々と拳を振り下ろす。

「いんじゃんホイ!!」

私だけがチョキを空中に泳がせており、他の皆は何の手も出さずその場で固まっていた。

「いんじゃん!?」

クエスチョンマークの集中砲火を浴び、ようやくいんじゃんホイという掛け声は私の地元だけのものなのだと悟った。
そして完全にスベッた空気になった。ウケを狙う気が無いのにスベッたのはこの時が人生で初めてである。なんかおもしろい事言えと言ったあいつまで白けてやがる。チクショウ。

それ以降いんじゃんホイという掛け声は封印したのだが、関西に帰ってきた今でもあまり聞かない。この掛け声はもう絶滅してしまったのだろうか。だとしたら私をいんじゃんホイでスベッた唯一の人類としてレッドリスト入りさせてほしい。環境省さん、一つよろしくお願いいたします。

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