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京都マラソン当日レポート②

 マラソンというのは基本単調な競技であり、我々一般人のレースにハラハラさせるようなデッドヒートは無い。よってただ単に経過報告をしてもつまらないので、レース中に起こった面白いこと(事件簿)を綴っていこうと思う。

事件簿1 : 富士山男

京都マラソンはランナーの安全を確保するという名目で仮装が禁止されている。とは言いつつも本音は京都様お得意の景観を守るためではないのか?「あんたら、京都の町をけったいな格好で走るのはやめておくれやす」てなもんだろう。
そんなお触れが出されていたにも関わらず、仮装したランナーは散見された。といってもせいぜいアフロの被り物をしているぐらいが関の山であり、おもしろランナーを見つけるという意味では微妙だった。そんな中、一番派手だと思ったランナーが富士山男である。頭部全体を覆うような富士山の被り物。前方ではなく上方に文字通り頭一つ抜き出たランナーと5〜10キロ地点でしばらく並走することとなった。

沿道からは「富士山頑張れー!」とか「うわ!富士山や!」といった声援が飛び交っていた。あと鷹と茄子がいれば完璧だなあ、というしょうもない考えが私の走りを邪魔した。雨が顔面に叩きつける中での雑念は致命的である。
動かざること山の如しとかつての武田信玄は言った。そんな格言をぶち壊し、古都を爆走する富士山男。天国の信玄公が見たらひどく悲しむだろう。彼は信玄餅を食う資格を生涯剥奪されるに違いない。
だめだ、またいらんことを考えてしまった。走りに集中せねばと思った矢先、大事件は起こった。

富士山男がタンを吐いたのだ。タンといってもあの麦ごはんと一緒に食べるおいしいやつではなく、オッサンが朝一番に洗面台に発射する方のそれである。
せめて走路の端に寄ってしてくれればいいものを、真ん中で堂々とやりおった。しかも一歩ほど後ろを走っていた私の足にあわや直撃という事態。その雄大な姿とは異なり、周囲の人間に被害をまき散らすとんでもない暴走活火山だった。
しかしそのおかげと言ってはなんだが、いろいろ湧いていた雑念がそこからスッと消えた。なんやあいつ、ムカつくから抜かしてやろ、という思考一本に絞ることが出来たのだ。
ありがとう富士山男、君の雄姿は忘れないよ。彼を抜き去りながら背中でお礼を言った。こんな状況でも感謝の心を忘れない僕、素敵でしょう??


事件簿2 : 思いがけず再会

マラソンにはいわゆる30kmの壁と言うものがある。人間はだいたい30km連続して走ると体内のエネルギーを使い切ってしまい、そこから一気に脚が動かなくなる現象だ。そんな最悪の現象に私も見舞われてしまった。予想はされていたことだが、やはり30kmを超えたところから一気にペースダウンした。痛む脚、進まない身体、次々と私を抜き去っていくランナー…。立て続けに訪れた試練により私の精神はボキボキに折られた。それでも「サブスリー達成します!エッヘン!」なんて大口を叩いたからにはリタイアは許されない。せめて歩くのだけは避けようと、早歩きに毛が生えたぐらいの速度でかろうじて走っていた。そんな私に対して沿道の人達はとても暖かかった。
「まつしたさん頑張れー!」「まつしたさん、あと少し!」という声援が私の心を満たしていった。ゼッケンには名前を大きくプリントできる仕様だったため、見ず知らずの人でも私の名前が分かるというシステムだ。「本名晒しながら走るのなんか嫌やなあ」、と申し込み時に逡巡したが、この時には名前を入れておいて良かったと心の底から思った。
そんな中迎えた37km地点、体力は限界かつゴールまで5km以上あるマラソンにおいて最も辛い箇所だと個人的に思っている。そこで受けた声援のなかで明らかに異質なものがあった。
「まつした頑張れー!」「まつしたさんファイトー!」
「まつしたー!え?まつした!!??」
ん?なんだ今の?声援の後にはビックリマークしか来ないものかと思っていたが、明らかにクエスチョンマークがひっついていた。私の脳内も一瞬でクエスチョンマークで満たされ、疑問解消の為に思わず沿道を仰ぎ見た。
そこには高校野球でチームメートだった先輩が立っていた。え?こんなとこで?なんで?
という新たなクエスチョンマークが発生した。もうクエスチョンの大渋滞である。恐らく知人の応援にでも来ていたのだと思うが、先輩の卒業以来全く連絡は取っていなかったし、もちろん今何をされているのかも存じ上げない。
それでも気が付けば
「○○さん(先輩の本名)?こんなところで会うなんて!」
という一言を口走っていた。30kmの壁にぶっ倒されそうになっている極限状態にありながら、よくもまあ先輩の名前が咄嗟に出たものだと思う。もしここで
「あれええ?誰でしたっけ?」
なんて言おうものなら、先輩は傷つくし私はもやもやした気持ちになるしで誰も得しない。

それ以降先輩と会うことは無く、現在に至るまで連絡も取れていない。しかし、もしまた会うことがあれば
「あの時は応援あざしたああ!!」
と一言お礼を言いたいと思う。


とまあこんな感じの京都マラソン本番だったが、ふらふらになりながらもなんとか完走した。フィニッシュ地点ではスタッフの方がランナーにマスクを配っていたが、誰も付けていなかった(そりゃそうだ)。スタッフの方も「そりゃそうですよね…」という顔をしていた。
記録としては自己ベストに35秒及ばないという悔しい結果だったが、突発的に出場を決めた事や、雨という悪条件を考慮すれば我ながらよくやったなあと思う。
レース後には社会人スポーツを一緒にやっているチームメートたちと焼肉へ行き、そこで流し込んだビールと焼肉はベロが爆発するぐらい美味であった。

サブスリー目指すぜ!というビッグマウスっぷりには目をつぶり、こんな感じでハッピーエンドにしておこう。
次のレースへの出場予定は今のところ無い。

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