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PATCH

inktober2021 29日目のお題は「PATCH」 つぎはぎ、である。

裁縫や編み物は割と好きだ。上手くはないけど、ものを作るのは楽しい。ムスメがまだ小さい頃、手芸にハマった。

布で何かを作ると、ハギレがたくさんできる。気に入った生地なので、捨てるのはもったいない。10cm四方くらいの生地は、何かに使えるかもと思ってとっておいた。

ある日、ジーンズの膝のところに穴が空いた。よく見ると、かなりダメージがあり、あちらこちらに穴が空きそうだったり、すでに擦り切れて穴が空いている。

そうだ、あのかわいいハギレを使ってパッチワーク風に…と考えた。大小のサイズは気にせず、コラージュのようにつぎはぎを縫った。

うむ。これはカワイイ。カラフルな柄がアクセントになって、古びたジーンズもちょっとお洒落に見えるじゃないか。わたしはそのジーンズを毎日のように履いた。どこに行くにも一番履きやすくて楽だし、何よりお気に入り。着ているだけで気分が良かった。

オットの実家に帰省したときのこと。よしよし、と抱っこしたムスメをあやしながら、鼻歌まじりに居間に立っていたら、座っていたお母さんがわたしを見上げ、「それは…」と何か言いかけた。え?なんですか?と聞き返したら、「いや、それ…トモ布はなかったんかね。うちにもどこか、ジーパンのハギレがありゃせんね。探してこうか。縫い直さんね」と言った。

そうか。わたしがカワイイと思っているこのつぎはぎは、お母さんにはみすぼらしく見えるのだな。それはわたしの裁縫の腕が今ひとつなのと、着こなしが野暮ったかったのだろう。シュッとした人が粋に着こなせば、こんなつぎはぎの服でも「おっ」と思わせるだろうから。

説得力がないわたしには「お母さん、これがいいんですよ」とも言えず、「おお、よしよし、オムツ替えようかねえ」と言いながら、ムスメを隣のへやに連れて行くふりをしてその場を逃げた。

その後、幼稚園にもそのつぎはぎジーンズを履いていくことがあったが、誰にも「いいね」とは言われなかった。穴のあいたジーンズを買い換えることもできないのね、と思われていたのかもしれんな、と今では思うが、当時はムスメの世話で必死に生きていたので、他人の目など全然気にならなかった。

そのジーンズはもう捨ててしまったけれど、気に入った服のことは結構覚えているものだな。そしてあの頃のことも同時に思い出す。

あの頃は毎日が新鮮だった。赤ん坊は輝いていて、周囲は愛に溢れていた。お父さんもお母さんも元気で、ムスメをたくさん可愛がってもらったなあ。つぎはぎのジーンズを履いたわたしは、今日のごはんとムスメの世話に明け暮れ、目の前のことしか考えていなかった。幸せな思い出だ。

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